第三話


 結局、海で遊ばせるというほかにたいした仕事もなく、夕方頃には海からあがって子供たちはお風呂へ連れて行かれた。
 私はというと、地元のPTAと・・・といっても近所のおばさんたちという感じだけど、合流して浜辺での夕食の準備。
 本音を言うと親とのつきあいって言うのはあまり得意じゃないんだけど、こっちの人は良くも悪くも気を遣わずにすんでざっくばらんで助かった。
 料理の方も同じで、地元で捕れた魚介類を焼いて食べるというシンプルな物なので、準備といってもそれほど大変ではない。
 途中からは地元の6年生、マサコちゃんも手伝いに合流してくれたので、もっぱら彼女と雑談をしながらの楽しい作業だった。
 
 下準備が終わると火おこしになるが、これも元漁師の人たちがてきぱきとやってくれるので、私は感心しながらそれを見ていた。
 おもしろかったのはうちの学校の信二くんが、すすんで手伝おうとしているのは偉いのだけれど、その様子がどうにもおっかなびっくりだったことだ。
 あとで志保ちゃんこっそり耳打ちしてきたところによると、どうやら信二君は毎年マサコちゃんに会いたくて参加しているらしい。
 6年生はこういう行事をバカにしているらしく、今年は信二君だけなのにそれでも参加してくる理由を私は納得した。きっと彼女に良いところを見せたかったんだろう。
 (でも、マサコちゃんもまんざらではないのかな?)
 一方の地元の学校には、もともと5年生以上はマサコちゃんしかいない。同じ6年の信二君にはいろいろと興味を引かれるものがあることだろう。
 食事をしながらさりげなくお互いに近寄っていく、二人の6年生の姿をほほえましく眺めていた。

 食事が終わると後かたづけになる、私は6年の二人と仲良く皿洗い。
 子供たちが曽根先生たちにつれられて帰った後は、地元のおばさんたちとおしゃべりしながら後かたづけ。
 どこでも変わらない「若くて良いね」「恋人はどんなひと?」攻勢を適当にかわすのにも慣れてきた自分がちょっと悲しかった。
 
 *

 泊まりがけの行事では、子供が寝た後にヒマな先生方が陣中見舞いと称して差し入れを持ってやってくる事がある。
 要するに宴会である。今夜も教頭先生をはじめ、何人かの先生がわざわざ車を飛ばして到着した。

 カタイ仕事に就いている人の酒癖の悪さはよく言われるけど、まあ事実だと認めるしかない。
 大騒ぎする先生方と地元の人たちに閉口しながら、ジャージ姿の私はビールをつぐだけで目が回りそうだった。
 「高木さんも浴衣になったほうが気分が出るのに」
 「あ、片づけで遅くなっちゃって・・・お風呂の後に着させてもらいますね」
 本当は時間がなかった事だけが理由ではない。
 「先生の分もあるからよ、着てみてくれや」
 と、せっかく用意してくれたのはうれしいのだけれど、あの薄い白地の浴衣では下着が透けてしまって・・・
 とてもここに着て来る事はできなかったのだ。
 他の女の先生はちゃんとスリップみたいな物を用意してきたのか、あるいはもう気にしないのか・・・なんていうとまた怒られちゃうかな。
 そんな事を考えている私に村役さんが近寄ってきた。

 「風呂ぉまだなのかい、だったらこんなとこでむさ苦しいジジイの相手してないでぇ、行ってきていいからよぉ」
 「あ、ありがとうございます。それじゃあ適当に失礼してそうさせてもらいます」

 「それがいいよぉ。沸かしなおしだけどよ、いちおう温泉だからよ。ここのオンボロの唯一の自慢だぁ」
 それから温泉の効能がどうとか、どうやってここに引いてるかとかいろいろ説明してくれたが、酔っているせいかどうもとりとめがない。
 「さっきお湯入れ替えてよ、沸かしなおさせたからよ、そろそろいいころだぁ」
 「はぁ・・・」
 言われるまでもなく、ほんとは早くお風呂に入って寝たかったが、新しいお湯を先に使うのはちょっと気が引けた。
 「そうだそうだよ、あんた若いんだから、年寄りの世話ばかりじゃ疲れちまうだろよ」
 地元のPTA会長がそういうと、村役もうんうんとうなずいた。
 「ほら、はやくしねと、こいつらの後入ったら子供出来ちまうよぉ」
 教頭先生たちの方を指さしてそういうものだから私は苦笑するしかない。
 みんな酔いも回ってきたようだし、とにかく出られるうちに退散しよう。
 「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
 私は酔っぱらった先生方に引き留められる前にささっと挨拶をしてその場を辞去した。


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