第9話


久美子さんがドアから出てくると6人分の視線が一斉に水着姿の彼女に向けられた。
 「えっ?」
 久美子さんは驚いて後ろを振り向き、ガラスの素通し具合に愕然とした表情を浮かべたが、そのまま下を向いて男たちと視線を合わせないようにして出口に向かった。
 「あと三人・・・」
 松山がポツリと言った。
 これで中に残っているのは由美子、瞳、そして絵美の3人だけになった。
 右側のベッドには由美子がこちらを頭にしてあられもない姿で仰向けに寝ている。
 奥では瞳が、乳首をもてあそばれたショックから立ち直る暇もなく、こんどは股間のあたりを容赦なくゴシゴシとこすられている。
 そして一番手前のもっとも見通しがいい台の上には絵美が、きわどいながらも松山たちの視線から裸体を隠して横になっている。
 ガラスの曇りはもやが晴れていくように次第に薄くなってきていた。奥に寝ていた瞳ですら乳首の色や形はもはや隠しようもなかった、男たちの妄想の中には、すでに全裸の瞳の姿がかなり完全な姿で登場していた。
 (いいっすか・・・)
 島本は瞳のたわわな胸を揉みしだく自分の手の感触を想像することができた。
 乳首を転がすように刺激し、口に含みたい・・・隠しきれずに時折チラチラと見えるあの股間の黒々とした茂みの下に顔を埋めてみたい・・・。
 「ふぅぅぅ・・・。」
 島本の呼吸が荒くなり、だらしなくゆるんだ腹の肉の下のほうで、まだオンナを知らない肉の棒がその存在を精一杯誇示しようとしていた。
 (瞳さん・・・)
 奥のベッドではオジサンが瞳の太ももの内側を、まるで股間を下から探るようにして、ゴシゴシとこすり続けていた。
 
 絵美は乳首を守り通したことでほんの少しだけ余裕をとりもどしていた。
 (オンナって強いよね・・・)
 絵美だけではなく、他のみんなも裸でいるためだろうか。自分でも不思議なことだったが、裸でいることにも少しずつ慣れが出てきたようだ。
 すでに「見せなければいけないものは全て見せてしまった」というあきらめとある種の安堵の入り交じった感情が絵美の緊張をほぐしていたのだろうか。
 (それにまあ・・・)
 さっきオジサンが絵美の懇願をやさしく受け入れてくれたことで、不思議な信頼感も生まれていた。
 (この人はプロなんだもん、別に裸なんて見慣れてるんだわ)
 なんだか疑って悪いことをしてしまったという気がした。だから下半身をマッサージしてもらうときには多少力を抜いてあげたが、オジサンは絵美の股間を凝視するようなことはせず、時折優しく絵美の方を見て笑うだけで真剣にアカスリを続けているように見えた。
 (外の男たちよりはずっとマシよね、ほんと、タチが悪いのは日本人だわ)
 そうこうしているうちにアカスリが終わり、オジサンは絵美に向かって身体を起こすように手で指示をした。
 (よいしょ)
 絵美は片手で胸をかくしたままで身体を起こすと、言われるままにガラスの反対を向いて台の端に腰をかけた。
 「ルックルック」
 オジサンは絵美の寝ていた台の上に落ちているアカを示すとニコニコと笑った。
 絵美は首だけを回してそれを見た。
 (いやぁー汚い・・・恥ずかしすぎ)
 裸を見せることとは違う恥ずかしさが絵美の顔をさらに赤く染める。
 オジサンは絵美の反応に満足したのか、シャワーを取り出して台の上を洗い流した。
 久美子さんをマッサージしていたオジサンがチラリとこちらを見ながら目の前を通り過ぎる。
 「◎×▼△▼◎●○?」
 「×○●」
 絵美のベッドを流していたオジサンが声をかけ、そこで短い会話を交わした。
 (あん・・・)
 もうすでに見られているとはいえ、裸で座っている目の前に巨体の男に立たれるのは抵抗がある。
 絵美はさりげなくヘアを隠すように足を組んだ。下腹のかなり下の方に柔らかく細い毛が控えめに生えているだけなので、こうして足を組むとその影はほとんど見えなくなる。
 巨体のオジサンはそんな絵美の姿をチラリと見ると、なにか一言言い残してドアの外に消えていった。
 (ふぅ)
 目の前のベッドにいる瞳の方を見ると、今は背中のマッサージをされているところだ。オジサンが太い指を器用に瞳の背中の上に這わせて、所々で指を立たせて肌を押さえるようにツボを押していく。
 (うわぁ・・・・気持ちよさそうだけど、ちょっとなぁ・・・)
 マッサージ自体は悪くなさそうだが、ああして素手で肌をなで回すように触られるのを見ていると、なんだかとても淫靡な行為のような気がしてしまう。
 オジサンは瞳の裸体の横に浮き出た肋骨の間にそって何度も指を這わせる。
 「ん・・・ふぅん・・・」
 ときおり瞳の口から漏れる吐息すら何か違ったものに聞こえてきてしまう。
 (やっぱり・・・いやだなぁ)
 見なければよかった、と絵美は思った。
 「オーケェイ!」
 オジサンが陽気な声を上げながら、プラスチック製の桶を絵美の横に置いた。
 (・・・?)
 チラリと目をやると中には白濁したお湯とスポンジのようなものが入っている。
 オジサンは片手に持ったシャワーを絵美の肩にかけるようなジェスチャーをしながら、髪をあげるように手で指示した。
 (えと・・・大丈夫かな???)
 絵美は慎重に胸を隠していた片手を外し、肩よりも少し長い髪をかき上げた。
 (髪をあげてくればよかったな)
 綺麗な白いうなじを見せびらかすように髪を持ち上げながら絵美は思った。
 オジサンがシャワーを浴びせると、絵美の艶やかな肌の上を浸食するように、ぬるいお湯が幾筋もの線を描いて流れ落ちていった。
 オジサンはシャワーで絵美の身体を軽く流すと、桶の中のスポンジを手に取った。
 (洗われるってことかしら・・・?)
 絵美はスポンジの使途を考えていたが、おじさんはさっさと石けん水をしたたらせるスポンジを絵美の肩口にのせると、そのまま軽く撫でるように背中を流し始めた。
 (うぁ・・・くすぐったいぃ)
 アカスリの力強さとちがい、スポンジで肌を撫でるように流されるのはなんだか気持ちいいような悪いような不思議な感触だ。
 オジサンは一旦スポンジを桶に戻して石けん水を補給するようだ。
 「◎●▼△★◎●□?」
 「×○●☆★○◎?」
 「◎●」
 「◎★△・・・◎●☆」
 スポンジを桶の中で遊ばせながら、今度は由美子をマッサージしているオジサンとなにやら話している。
 (由美・・・)
 放置される格好になった絵美は、さきほどから見ないようにしていた由美子の方を横目で見た。
 由美子は仰向けにされたままで両足首を持たれ、片足ずつ、膝や股関節を曲げるストレッチ運動をされている。
 鑑賞され、もてあそばれつくした美しい乳房は今は両手で隠されているが、脚はまるで人形のように力なくオジサンの思うがままに曲げられ、伸ばされ、そしてわざと秘部を露出させるかのように開かれていた。
 「・・・ん・・・」
 気の強い由美子もさすがに顔を真っ赤にして涙をこらえているように見える。
 オジサンは由美子の脚側に立ち、ときおり開かれたアソコをのぞき込むかのように前のめりになって由美子の脚を曲げていた。
 オジサン同士で訳の分からない会話を続けながらも、視線は真っ直ぐそちらを向いたままだ。
 (いっ・・・やぁ・・・)
 あのまま顔を埋めてアソコにキスするのではないかとおもわず不安になる。
 絵美は耐えきれずに再び由美子の裸体から目をそらした・・・。

 「ぉぉおぉぉぉぉ」
 ガラスの外が騒がしい。
 (何?)
 絵美は思わず後ろを振り向いた。その拍子に乳首がこぼれそうになりあわてて手を戻す。張りのある乳房がプルプルと小さく震えた。
 (・・・!?)
 (!?)
 由美子と瞳も外の騒ぎに気がついたようだ、ふたりとも顔をこちら側に向けてガラスの向こうをうかがっている。
 ガチャリ・・・
 その次の瞬間、ガラスのドアが遠慮気味に開かれ、水着姿の島本がメガネをかけたまま中をうかがうように顔を出した。
 「あ・・・」
 島本は短く声を発して何か言おうとしたが、それよりも早く由美子が非難の声を上げた。
 「ちっちょっと、まってよ!」
 ドアのすぐ横に寝ている由美子は顔を上に向けて島本をにらみつけた。
 「え・・・はっ!はい!」
 島本はその勢いに押されてドアの外に出ようとしたようが、すぐ後ろにいた白衣のオジサンに制されて所在なげにその場に踏みとどまった。
 「ウソでしょ・・・?」
 相変わらず両脚をおもちゃにされながら、由美子が誰にともなく言った。
 島本の視線はその間にも由美子の裸の上をなめるように移動し、不格好に開かれた股間の上にある黒々とした茂みで動きを止める。
 「☆◎☆!」
 オジサンが先ほどまで久美子さんが寝ていた台を指さした。
 「・・・?」
 島本が同じように指でさして確認すると、オジサンは何度もうなずいてみせる。
 「あ・・・じゃぁ・・・すみません、失礼しますっス」
 気の弱い島本はなおも迷っていたようだが、この絶好の機会を逃さないだけの勇気はあったのか、すこしうつむいたまま部屋の中を移動し始めた。
 (ウソぉ・・・)
 絵美と瞳は言葉を発することすらできないまま必死に身体を隠そうとした。
 「すみませんっス」
 島本は瞳と絵美の台の間をおどおどしながら通過していく。
 (・・・見るなぁ・・・)
 度のきついメガネをかけたままの島本は、チラチラと左右の絵美と瞳の裸をのぞき見ている。
 手のふさがった絵美は片手で胸を隠すだけで、脚をさらに深く組んでヘアを隠そうとするのがやっとだった。
 一方、今しがた仰向けにされたばかりの瞳はヘアと胸を片手ずつで必死に隠していた。だが、島本が通過するタイミングに合わせるかのようにオジサンが肩口のマッサージを始めると、両手が微妙にずれ、左の乳首が半分ぐらい露出した。 
 「ぁん・・・」
 瞳は小さな声を上げてあわててそれを隠し、同時にこわごわと島本の顔を見た。
 島本の視線はしかし、その一瞬を見逃してはくれなかったようだ。
 「あ、あの・・・すみませんっス」
 瞳の視線に気がつくと、よくわからない謝り方をしてそのまま奥の台へと向かっていった。


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