第10話


「◎◎!!!」
 島本がドアの中をのぞいた瞬間、すぐ目の前の台の上で、顔だけをこちらに向けた由美子がなにか叫んだようだ。
 「はっ!はい!」
 島本は反射的に謝りながら、彼女の姿をかすめ見た。
 (あっ!!)
 外にいるときから予想はしていたが由美子は全裸だった。
 (まじっすか!?)
 ひるんだ島本をオジサンが無理矢理中に連れ込んだ。
 そのとたん、目の前に広がる光景に息をのむ。
 (おおぉぉ・・・)
 部屋の中には三組の、白衣の男と裸の女がいた。
 無機質な部屋と、白衣から伸びる男たちの褐色の肌が、女たちの裸体の白さをひときわ際だたせるのだろうか、まるでそれだけ視界の中にうかびあがるように三人の裸が目に入ってくる。
 (ああ・・・瞳さん・・・)
 島本は瞳の姿に少なからぬショックを受けた。
 奥の台の上に寝かされた瞳は、仰向けのまま必死に大事なところを隠している。
 だが、横に立つ男の毛深い二本の腕は、まるで無理矢理いたずらをするように彼女にねらいを定めているようだった。
 (ちくしょ・・・)
 屈辱に歪む瞳の顔が、島本の理由のない正義感を奮い立たせたが、それはすぐにしぼんでいった。
 (・・・)
 島本は瞳の裸体から目を離せなかった。そんな自分に、瞳の身体をもてあそぶオジサンを責める資格があるわけはないのだ。
 「ゴー」
 島本を呼んだオジサンが部屋の一番奥のベッドを指さした。
 「は、はい」
 島本は意志に背いて顔をうつむき気味にしながら、ゆっくりと前へ進んだ。
 「すみませんっす」
 口ではそう言うが、通過するときチラリチラリと視線が女の肌を求めてさまよう。
 (見るなったって無理っすよぉ・・・!)
 由美子は男に脚を持たれたまま、ときに仰向けに、ときに横を向かせられ、まるで男のモノを受け入れるときのように、無防備に股間を晒している。
 身体をひねるたびに、両手で隠した胸は今にもポロリといってしまいそうにプルプルと小刻みに暴れた。
 引き締まった身体の下の方では、意外に柔らかそうな細かい縮れ毛がローションに濡れていた。
 (エロいっす・・・エロ過ぎっす)
 由美子の淫らなポーズからは、性の快楽に浸るとき、彼女のしなやかな裸体が鞭のようにしなる姿を想像せずにはいられなかった。
 島本は由美子の裸体を頭のほうから通過して左に曲がった。
 そこから絵美と瞳の台の間を通って奥へ向かう訳だが、小心者の島本はそのせっかくのチャンスを生かそうとせず、わざと下を向いて通ろうとした。
 (瞳さん、僕は見ないっすよ)
 三人の娘がにらみつけている。島本はこれ以上瞳に嫌われたくなかったのだ。
 「フ・・・」
 そんな島本の姿を見たオジサンが、ニヤリと笑って、瞳の肩口に手を伸ばした。
 「ぁん・・・」
 (・・・!?)
 瞳の口から漏れる声を聞いて、思わず島本がそちらを見た。
 (!)
 島本の目の前で、瞳の手の位置がずれ、プルンと揺れる乳房の上で片方の乳首が露出した。
 (ああ・・・!)
 島本も、瞳も、座ったままそれを見ていた絵美も息をのむ一瞬だった。
 あわてて隠したが、片方を隠そうとするともう片方の乳首がのぞきそうになる。
 「ぃ・・・やぁ・・・」
 瞳の口から小さな声が漏れ、仰向けでもつぶれない、張りのあるおっぱいがタプンタプンと大きく揺れた。
 おそらく一生忘れられない光景だろう。
 いかにもやわらかそうな乳房の上に、乳輪がうっすらと一段ふくれあがり、その中心にはほんの少しだけ朱を濃くした乳首がポツっと置かれている。
 まるで薄く焼いたクッキーに砂糖菓子がのっているようだ、と島本は思った。
 
 (ごめんなさいっす・・・瞳さん・・・)
 ようやくそこから目をそらすと、島本は心の中で謝った。
 そして一方でその幸運に感謝ながら、女たちの非難の視線をかいくるぐるように奥の台に向かった。
 
 (まったく男って・・・!)
 動けない絵美は顔だけを島本に向けてにらみつけたが、すぐにそれが無駄だと知って視線を下に戻した。
 もとより島本だけが悪いわけではない。この状況で見るなという方が無理な話だというのも分かる。
 ただ、混乱して、焦っていた。
 (・・・)
 絵美の視線は深く組んだ自分の両脚の付け根に向いた。
 他の女性よりはるかに薄い、絵美のアンダーヘアでさえも隠しきることはできず、横一列にキレイに並んだ生えぎわの黒い線が見える。
 島本がチラリとそこを見ていったのは気がついていた。
 (・・・見られちゃった・・・)
 周りを見れば、由美子も瞳もチラチラと隠しきれない裸がのぞいている。
 (無理だよね・・・)
 絵美はため息をついた。
 混乱した頭を必死に働かせてみても、この状況で裸を隠しきるのは不可能だという結論しか浮かんでこない。いや、冷静に考えようとすればするほど、それは不可能に思えた。
 出入り口は一つ。女三人に対して男は五人、外にはさらに数人のイヤらしい男たちが待ちかまえている。
 どこに逃げても照らし出してやると言わんばかりに、明るく作られた照明設備。いまにも彼女たちを守る役目を放棄しそうな一面のガラス壁・・・
 そしてなんといっても彼女たちは一糸まとわぬ全裸であり、この部屋の中には身体を隠せそうなものは何もないのだ。
 どこかにバスタオルのようなものでもあれば気分が違うのかもしれないが、周りにはオジサンが使う小さな小さなタオルと手袋があるだけで、あとは自分たちが着てきたこれまた頼りない水着があるだけだ。
 (イヤ・・・もう)
 そこまで考えて、絵美は不安で一杯になった。
 服を全てはぎ取られ、広場に置き去りにされたような気分だった。
 周りには身を隠すところは何もなく、今にも周囲の誰かが彼女を辱めにやってくる・・・
 (・・・逃げられない)
 どうやっても、ここで慰みモノになる運命なのだという絶望的な気分が次第に彼女を支配していった。


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