第5話


 「オーケイ!」
 オバサンがいなくなるのを待っていたかのように、オジサンすっくと立ち上がり、ニコニコと笑いながらガラス戸へ向かった。
 「カムカム」
 オジサンはガラス戸を開くと、絵美の方を向いて手招きする。
 (・・・・・・。)
 絵美は相変わらず固まったままだった。
 あの中に入ってしまったらもう逃げ出せない、それはよく分かっていた。
 (でも・・・)
 かといってここでやっぱりやめるなんて言えるわけない。由美子や瞳の恥ずかしさを考えると自分だけ逃げるなんてできない。
 (あぁ、もう・・・)
 絵美は真っ赤な顔を片手で覆うようにして、ゆっくりゆっくりと立ち上がった。
 「行ってらっしゃいっす」
 「がんばってくださーい」
 「見守ってますねぇ」
 三人の男たちは絵美の小さな水着姿をジロジロと眺めながら声をかけた。
 (Bか?Cかな?細いけど形も良さそうだし結構ありそうだなぁ)
 (乳首はピンクだ、絶対だな)
 (あの突起をつまんでこねくり回したら・・・)
 島本たちは絵美の水着姿を記憶して、これから始まるショーに備えようと必死だった。
 (もう!男ってホントに・・・)
 背後にその視線を痛いほどに感じていたが、かといってもうどうしようもない。絵美はゆっくりゆっくりとガラス戸に向かっていった。
 薄い、小さな水着からは今にもお尻の割れ目が覗きそうだ。
 (・・・)
 絵美は身体をさらに小さくして、そのガラス戸をくぐった。
 (ああぁ・・・!)
 そのとたん、彼女はかすかなめまいを感じた。
 すぐ横にこちらを頭にした由美子の裸体があった。彼女は再びうつぶせで、オジサンが足首のあたりをマッサージしている。
 二本の手で両足首を持たれ、脚は肩幅ほどに開かれていた。こちらからは見えないが、足首を揉んでいるオジサンの視線の先には由美子の大事なところが無防備な姿を晒しているはずだった。
 由美子は枕がわりのクッションを両手で抱えるようにして真っ赤な顔を隠し、恥辱に耐えていた。
 オジサンは両手をそのまま彼女の脚に沿って上に上らせていく、由美子の両手がこわばるのが絵美にも分かった。
 「・・・っ!」
 太もものあたりに両手がやってくると、由美子は思わず脚を閉じようとした。
 だが、オジサンはかまわずにそのまま両の膝の間に手を入れると、ふんっと力を入れて彼女の両脚を開かせ、マッサージオイルの滑りやすさに助けられて一気に両手を上に持って行った。
 「・・・んんっ!」
 由美子は思わず小さな声を上げた。
 (由美ぃ・・・)
 絵美からははっきりとわからないが、オジサンの手は由美子の股間の突き当たりまであっけなく到達したように見えた。
 由美子は身体を軽くひねるようにうごかし、両手でさらに顔を隠した。
 
 奥の方では瞳が裸の背中をゴシゴシとこすられていた。オジサンの手は次第に彼女のお尻の膨らみを登ろうとするように、少しずつ下へと向かっていくようだ。
 瞳も由美子と同じように両手で胸と顔を隠すようにしてうつ伏せになっていたが、オジサンの手がお尻の肉をプルンと揺らすたびにビクリと身体を硬くして反応していた。
 (瞳ちゃん・・・)
 瞳の脚の先、部屋の逆側の壁の前にはやはり同じツアーの久美子さんが仰向けに寝かせられ、何も隠すことができない状態でなすがままに裸体をなで回されている。
 「プリーズ!」
 絵美を呼んだオジサンが空いているベッドを手で指し示した。
 「・・・オーケィ」
 絵美はビキニの胸を隠したままそちらへ向かった。チラリとガラスの仕切りの向こうを見たが、照明の関係かこちらからは向こうの様子が分からない。
 「(ここに寝るの?)」
 絵美はベッドを指さして身振りでそう聞いた。
 「イェス。バット・・・」
 オジサンは普段なら笑ってしまうほど滑稽に、水着のブラを外すジェスチャーをした。
 (・・・あぁ・・・ん)
 やっぱり、と絵美は思った。
 馬鹿みたいではあるがここに至るまで絵美にはほんの少しの希望があった。他の人と違い、最初から男性が施術すると分かっているのだから水着のままで良いと言ってくれるかもしれない。あるいはせめて日本のように、身体にタオルを掛けてくれるとかの気遣いをしてくれるかもしれない。
 「オーケィ・・・」
 だが周りにはタオルは見あたらず、他の三人を見てもそんなタイプの心配りがあるとは思えなかった。
 さらに今自分が立っている場所は、さっき麻里子さんが着替えていた場所と同じはずだった。ということは・・・
 絵美は再びガラスの向こうを見やった。姿の見えない男たちの声が聞こえ、それはまるで自分をはやし立てているようにも感じられた。
 「んもぅ・・・」
 絵美は口に出してそういうと水着を脱ぐための場所を探した。
 部屋の中は思っていたよりも狭く、自分が今いるベッドとガラスの間のスペース意外に場所はない。水着を置くための台はガラスのすぐ手前にちょこんと置いてある。
 「・・・わかりました」
 動揺を隠せず、思わず言葉が口をつく。
 とはいえもはやどうしようもなかった。絵美は覚悟を決めると、ガラスに背を向けたまま、注意深く片手でブラの紐をほどきにかかった。
 「・・・ん」
 緊張のためかうまくほどけない。オジサンの方を見ると、彼はなにやら洗面器の中にあやしげな液体を調合している。
 (・・・いまのうちに)
 液体の正体も気になったが、今はとりあえずこの隙にさっさと裸になって横になってしまうべきだった。
 胸を隠していた手を後ろに回すと、両手でさっと背中の紐を外した。
 ふぁさっとあっけなく紐がほどけ、裸の胸が露出しそうになったのを今度はあわてて両手を前に回して押さえる。
 オジサンは洗面器に夢中だ。
 (あぶない・・・)
 絵美は片手でブラを押さえたまま首の後ろの紐をほどいた。今度は片手でもうまく外せ、ブラはただの薄い三角形の布になった。
 絵美はそのままブラを慎重に下に抜いて身体から離すと、片手でそれを持ち、片手で両方の胸を隠したまま、後ろ向きに数歩下がって台の上に水着を置いた。
 わずかな布のいましめを解かれた張りの良いおっぱいは、一歩歩くごとにプルプルと腕の下で小刻みに揺れた。
 (問題は次ね・・・)
 オジサンはなにやら小さな布を出して洗面器に浸している。
 最後の望みをかけて「下も?」と聞いてみようかと思ったが、どうせダメだろうし、このまま向こうを向いている間に脱いでしまった方が良さそうだった。
 「・・・よね?」
 絵美は自分で言い聞かせるように小声でそう言うと、裸の上半身を隠したまま台の下に隠れるようにしゃがんでビキニのボトムを脱ごうとした。
 (脱ぎにくいなぁ・・・)
 ゆるめに縛ってあったとはいえ、座ったままでは濡れた水着は脱ぎにくい。しかも胸を隠すために片手しか使えないのだ。
 ガラスの向こうで男たちの歓声が聞こえた。絵美は焦った。麻里子さんのときと同じぐらいの透け方だとすれば自分がどんな格好で苦戦しているかも全部分かってしまうだろう。由美子ほどではないが、絵美もプライドの高い女である、こうして悪あがき(だということはわかっているのだ)をしている姿をあんな男たちに笑いものにされるのは耐えられなかった。
 (くやしぃ・・・)
 かといってこの場で彼らに裸を見せてあげるのはもっとイヤだ。早くしないとオジサンもこっちに注意を集中してしまう。
 (あ!)
 追いつめられた絵美は思いついたままにビキニの紐をほどいた。両方の紐をほどくと、ボトムはブラと同じようにあっけなくただの布きれへと戻った。
 しゃがみこんだまま、ぺろんと絵美のまっしろなお尻があらわになった。絵美は急いで布地を身体の前に引っ張ると、胸を押さえている手の指先でそれをつまみ、もう一方の手で股間を隠して立ち上がった。
 「・・・!」
 立ち上がった瞬間、こちらを向いていたオジサンと眼があった。
 「オーケイ?」
 「お、オーケィ」
 絵美が消え入りそうな声で答えると、オジサンはふたたび横を向いて準備に戻った。
 (やっぱり、イヤ・・・)
 オジサンに正面から見据えられ、あらためて自分が全裸であるということの実感が湧いたきた。見知らぬ男の前で裸になっているということ、そして、後ろからは大勢の男たちが、すでに隠せなくなってしまった絵美のお尻を凝視しているということ、ついさっきまでは信じられないような現実に絵美の顔は再び羞恥で真っ赤に染まった。


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