第6話
ガラスの外は大騒ぎだった。
島本たち三人に加え、あとからやってきたのはやはり同じツアーに参加していた学生三人組の西田、須藤、原口だ。
三人ともいかにもな髪型とだらしない服装、さらに頭の悪そうな会話が他の参加者のひんしゅくを買っているのだが、本人たちは全く気にもとめていないというのもこういうタイプの特徴でもあり強さでもある。
いまも大騒ぎをしながら入って来て、中にまだ女性が残っていることに気がつくと、歓声を上げて島本たちに状況を尋ねてきたのだった。
「マジ?あれ誰?瞳ちゃんと、由美子ちゃん?左は?久美子さんで・・・」
「今脱いでるの誰よ?」
中では絵美がブラを外そうと四苦八苦していた。
「・・・絵美ちゃん?」
西田は島本の答えを待たずにうれしそうにそう言うと、さらに必死に中をのぞき込んだ。
「おい、久美子さん丸見えじゃん!」
久美子さんは仰向けでこちら側に脚を開く格好だ。乳首や陰毛の形はうっすらとだがここからも分かる。股間にある彼女の淫らな入り口さえもその存在を隠しきれてはいなかった。
「つうかよ、みんなマッパかい!マジありえねー!」
島本たちは聞かれたことに黙ってうなずいたり、曖昧に答えたりしていた。彼らにとってもあまり得意なタイプの連中ではないのだ。
絵美が外したブラを台の上に置くためガラスに近づいてくる。
「おい・・・!」
「うっ!」
これだけ近づくとガラス越しに絵美の裸の背中と、わずかに身体を隠す水着のボトムがはっきりと見える。
「ぬう・・・」
男たちは急に声を潜めてその様子を眺めた。
「・・・俺さ、絵美ちゃんタイプなんだよ、俺がマッサージしてやるのによぉ」
絵美がガラスから離れると須藤は悔しそうにそう言った。
「俺もだよ、ああいうタイプをヒィヒィ言わせてみたいよなあ」
「おお!スペシャルマッサージ!」
「だな」
西田たちもそういって大笑いしながらうなずいた。
絵美はしゃがんだまま水着のボトムを脱ごうと必死に身体を動かしている。
「おお、絵美ちゃんもマッパですよ」
「マジありえねー!」
ボキャブラリーの貧困さを露呈しながら再び歓声が上がる。
そのうちに、須藤が立ち上がった。
「隊長、行ってもいいですか?」
ガラスの方を指さして西田と原口に尋ねた。
「ん?・・・待て、俺も行く!」
西田は言葉の意味をちょっと考えてからそう答えると、須藤の横に立ち上がった。
「では!」
二人は他の四人に向かって敬礼のポーズをとると、おもむろに匍匐前進をして絵美が水着を脱いでいるガラスのそばへ向かっていった。
「うむ」
須藤は一人でうなずくと、原口の方へ向かって腕をふった。
原口はすこし躊躇したが、結局遠慮気味な匍匐前進で他の二人の横へ並んだ。
「おおお」
絵美はいままさに水着を取り去ったところだった。真っ白な肌の中でもとりわけ白いお尻が曇ったガラス越しに確認できる。西田たちは床に近いガラスに顔を近づけて中の様子を必死にうかがった。
(アホだなこいつら)
松山はその姿を見て思った。
水着を置くためにガラスに近づいてくる絵美を下から仰ぎ見るため、西田たちはラッコのように仰向けになって床に寝ころんでいる。
三つの頭を寄せあい、見苦しく膨らんだ股間を隠そうともしないその姿は、男から見ても恥ずかしかった。
(ほお・・・)
見苦しい三つの物体の向こうから近づいてくる、彫刻のような裸身に眼を戻して、松山はその見事なプロポーションに感嘆した。
そもそも中の様子は近くよりもここからの方がよく見えることもある。こんな曇りガラスの場合、近づくばかりが能ではないのいだ。
(にしてもさっきの話、本当か?)
松山はさっきのニヤニヤ笑うオヤジが言い残したある言葉を思い出し、そんなはずはないだろうと思いながらも、期待と欲望というとが入り交じった眼で絵美の裸体を眺めていた。
(どうしよう)
台の横まできた絵美は、身体を隠しながら水着を置くことができずに悩んだ。
お尻はもうあきらめてしまったが、全裸で後ろのギャラリーの方を振り向くのはイヤだった。
さっきの麻里子さんの姿が頭に浮かぶ、かろうじて大事なところだけは隠しているとはいえ、ここは後ろのギャラリーからは丸見えのはずだ、一挙手一投足に男たちの視線が集中しているのは間違いない。
(うう・・・)
恥辱と悔しさで、絵美の顔は真っ赤に染まった。
(仕方ない・・・)
ここで悩んでいても男たちを喜ばせるだけだ。絵美は片足を股間を隠すように折りながら持ち上げて、不器用なフラミンゴのようにフラフラしながら、空いた手で水着を台に置いた。
(あん・・・)
投げるように置いたため、ちょうど水着の内側の生地が表に来るようにダラしなく広がった。別に汚れているわけでも無いが、絵美の性格上、そのままにしておくことはできなかった。
(よいしょ・・・あっ!)
手を伸ばして水着を折りたたもうとしたが、それが災いしてバランスを崩した。
「きゃっ!」
あわてて脚を下ろし、中腰の姿勢で倒れるのを防いだ。目を上げると、悲鳴に反応した部屋中の視線がこちらを向いている。絵美はあわてて胸を隠す手を整えたが、もうヘアは丸見えだった。
「オーケイ?」
「い、イェス」
(なんでこうなるのぉ・・・)
絵美は涙目でこう答えると、水着のボトムをブラと並べて整え、そそくさと施術台の方へ戻った。
「プリーズ?」
オジサンはニコリと笑って台の上にうつ伏せに寝ろというジェスチャーをした。
(いよいよだわ・・・)
絵美はもう一度周囲の三つの台を見渡した。どの台の上も自分がそんな格好をさせられるとは思いたくない状況だった。
オジサンのほうを見ると、眼があってニコリと笑ってくる。自分のハダカを見せる生涯二人目の男が、目の前のこの異国のオジサンであるということに、絵美はまだ実感が湧かなかった。
(よいしょ)
足下の方を選んで台に腰掛け、そこから胸を隠したまま身体をひねって台に寝ころぶ。お尻をプルプル揺らしながら、這うように顔を枕に乗せに行き、どうにか無事に場所に納まった。
(うわぁぁ・・・)
乳首が台に当たるひんやりした感覚が、自分が裸であることを教えてくれた。
両脚は足首のあたりで組み、お尻に力を入れ、股間がのぞき込まれるのを防ぐ。
どうにか準備完了だ。
(心の準備以外はね・・・)
キョロキョロと落ち着かずに周りを見回していると、オジサンがアカスリ用の手袋をして絵美の横に立った。
(来た・・・!)
その直後、絵美の裸の背中がゴシゴシとこすられる感覚が始まった。
(いやん・・・)
手袋越しとはいえ、オジサンの十本の指の感触が伝わってくる。絵美は脚をきつく閉じて、身体を硬くした。
ゴシゴシは結構力強い。胸が台に押しつけられてつぶれそうだった。
絵美は恥ずかしさのあまり眼を閉じたが、そうすると余計に背中の感覚が鋭敏になるようだ。
再び目を開け、横を見た。オジサンの向こうに仰向けになった瞳の脚が見えた。
上を見た。久美子さんが両脚の指をマッサージされていた。
下は見えないが、絵美の脚の先では由美子がやはり裸体を揉まれているはずだった。
さっき寝ころぶときにも気になったが、由美子の顔は絵美の股間をちょうどのぞき込む位置にあり、同性とはいえ恥ずかしい。絵美はさらに脚を固く閉じた。
「ふん、ふん」
オジサンの鼻息とともに、ゴシゴシは背中の上の方、首の近くまでやってきた。絵美は圧力に耐えられずに枕に顔を押しつけて眼を閉じた。夢なら早くさめて欲しかった。
第7話へ