第4話
「あなたの分は彼がやるそうです」
絵美は信じられないという顔をしてオジサンを見たが、オジサンは彼女のおびえた瞳を正面から見据えて、ただただニコニコと笑っているだけだった。
「すみずみまで、じっく〜りしてあげるそうですよぉ」
松山がそんな絵美の露出した肌をジロジロと見て、からかうように言った。
(いやぁ・・・)
絵美は下を向くと、固まったまま何も考えられなくなった。このままここから帰りたいと思ったが、由美子や瞳ちゃんを置いて帰ることはできるわけもない。
ふと横に眼を走らせるとオジサン毛むくじゃらの手が目に入ってくる。それがこれから自分の肌をなで回すのかと思うだけで、目の前が真っ暗になった。
(まったくいい商売だよなぁ)
松山も同じ光景を想像していた。
絵美の真っ白な肌とコントラストをなす、浅黒く日焼けした、ゴツイ五本の指先。それが絵美の裸体の隅々までを舐め回すように陵辱していく。
(いいねぇ)
視線を中に向けると、一番こちら側のベッドではあおむけになったOLの麻里子さんが足首のあたりをマッサージされている。
もちろん全裸だ。
乳首を片手でさりげなく隠しているが、ヘアーは晒され続けたままである。肩幅ほどに開かれた両足首のあたりを、最後に残ったオバチャンが両手で揉んでいる。
(いい眺めだろうねぇ)
オバチャンの位置からは麻里子さんのむき出しの股間を下からのぞき込む形になる。とうぜんすべて丸見えだろう。
(フフン)
松山は絵美に視線を戻した。
「すみずみまで〜」は松山が勝手に付け加えた言葉だったが、中の様子を見る限りそれはあながち嘘とも言い切れない。自分の手で絵美の裸体をなで回すかのように妄想して、松山は興奮をおさえきれずにその時を待った。
絵美にも中の様子はよく分かっていた。麻里子さん、瞳ちゃん、由美子、それから麻里子さんのお友達の久美さん。みんな突然乱入した男たちの前にまったくの裸で寝かせられ、身体を隠すこともままならず、なされるがままにされている。
ついさっき、水着ごしに胸を見られた時の衝撃が思い出された。今度はそれどころではない。このあやしげなオジチャンの前で全裸になり、しかもマッサージされるなんて想像もできなかった。しかも曇ったガラス越しとはいえ松山たちにその姿を観察されながらである。
(もういゃぁ・・・)
絵美はうつむいたまま上目遣いに中の様子を見た。
素っ裸の由美子が両方のおっぱいをわしづかみにされるように揉まれている。張りのある豊かな胸の弾力を試すかのように男の指がクニ、クニ、と何度も動いている。
奥では観念した瞳が裸の背中をゴシゴシとこすられているのがぼんやりと見える。両脚首のあたりを交差させ、股間を覗かれることを必死に避けようとしているのがいたいたしくさえ思えた。お尻を隠していたわずかな白い布地は取り去られ、柔らかそうな二つの膨らみの間ににうっすらと影が縦に走っているのがわかる。
(いやぁ・・・)
絵美が目をそらそうとしたそのときだった、手前でマッサージを受けていた麻里子さんの作業が終わったらしく、彼女は男たちから身を隠すように素早く立ち上がると軽く胸を隠しただけでガラス側に近づいてきた。。
「あ・・・(ダメよ・・・!)」
絵美は思わず声を上げそうになった。男たちは息をのんで麻里子さんの姿に視線を集中させた。
麻里子さんはこちらの様子に気がついていないのだろうか、しきりと後ろの白衣の男たちを気にしながら、ガラスのすぐ近くの台に置かれた水着に手を伸ばした。
(近づいちゃだめぇ!)
絵美の思いは届かず、麻里子さんはあっさりと乳首を隠していた手を外してしまった。
「おっ・・・」
誰かが小さく声を上げた。
この距離ではガラスはほとんど素通しといってよかった。
麻里子さん華奢な裸体の上に、熟した木の実のような乳首と小さな乳輪がはっきりと見えた、よく手入れをされたビキニラインはその毛並みまでも確認できた。
男たちの呼吸音が一段高くなったように感じられ、絵美は思わず隣にいた松山の姿に目をやった。
(・・・!)
松山は絵美に見られていることに気がつかないまま、食い入るように麻里子さんの裸体を眺めていたが、絵美の視線は反射的に、見たくなかったその物体を見つけてしまった。
(・・・・いやぁぁ!)
松山の水着の股間には彼の痩せこけた身体には似合わないほどの、大きな肉の突起が天を向いてそそり立っていた。水着越しではあったが、絵美はその姿をまともに見て、その醜さにぞっとした。
麻里子さんはその細すぎるほどに細い裸体をこちらに向けたまま、水着をつけようと焦っているようだった。
肋骨や腰骨が浮き出たその裸体は、たとえば由美子や瞳に比べて見劣りすることは否めなかったが、そこには何か不思議と男たちを興奮させるものがある。
もしも島本たちが童貞でなかったならば、その理由をこう推測することができただろう、それは麻里子の、女の性の歓びを知り尽くした身体から醸し出る色気のためであると。
赤く色づいた小さな乳首は舌で転がされるのを待っているかのように、凹凸の少ない裸体の上に主張するように飛び出し、膨らんだ腰まわりは男の肉棒を受け入れて激しく動く姿を思い描かさずにはいられない、そして黒々と茂る陰毛はその流れの先にある湿った女の器官の存在をことさらに主張しているようだった。
麻里子さんは両手でビキニのボトムを手に取り、お腹の前に広げて前後を確かめたあとで、後ろを気にしながらそれを履くと、お尻を隠した事でちょっと落ち着いたのか「ふぅ」と、一つ息をついた。
それから、実際の乳房より大きめのカップがついたブラを持ち上げ、まるで何かのボタンのような、ポチンと突き出た乳首をこちらに突き出すようにして、スレンダーな胸を精一杯張ってそれを身につけた。
島本たちはその一部始終を食い入るように見つめた。三美神の入浴に迷い込んだ感のあった島本たちにとって、それはあまりに生々しい女の身体だった。なにか遠いところから眺めるだけであった女たちの裸体が、一気に性欲の対象として目の前にやってきたような気がした。
美しかったガラス越しの裸体たちが、淫らな肉の器官を備えた女の身体へと姿を変えていき、男たちの興奮はいやがおうもなく加速した。
(・・・イャ)
絵美はうつむいたままでその空気を敏感に察知した。
男たちの目がずっと生々しい欲望に満ちてきた。松山の醜い生殖器の姿が頭に浮かんだ。島本も浅野も同じ欲望を中の女性たちに向けているのが分かった。そしてその欲望が次に向けられるのが自分の裸体に対してであるということに愕然とした。
目の前には先ほどまで麻里子さんが寝ていた台が、つぎの生贄を待っている。
(ちょっと待って・・・まだ終わらないで・・・)
願いもむなしく、ガラス戸から麻里子さんが出てくると、大勢の男たちにぎょっとして、早足に外へと消えていった。
いよいよ絵美の番だ。
絵美の心臓が高鳴る。よりによって、一番ギャラリーから見やすい所が回ってきた。
(待ってよぉ・・・)
涙目の絵美をあざ笑うように、すぐに最後の白衣のオバサンが中から出てくると、オジサンに挨拶して外へと消えた。
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