第20話
「感じてんじゃねーの?絵美ちゃん?」
「なぁ?」
ボソボソと男たちが交わす卑猥な話に聞こえないふりをしながら、由美子は生け贄の親友を不安そうに見つめた。
(そうよ・・・)
もちろん感じているはずだ、もしも自分と同じことをされたのならば・・・
由美子は異国の男が自分の裸体の隅々までに施した儀式のようなマッサージを反芻して、顔を赤らめた。
「おい、あのオヤジ絵美ちゃんのオ○ンコ丸見えじゃんか!」
「見せろ〜」
「そうだ、濡れ濡れマ○コ見せろ〜」
西田たちはわざと由美子に聞こえるように卑猥な会話を続け、チラチラと由美子の方を見ては反応を楽しんでいるようだ。
普段の由美子なら笑い飛ばすこともできるのだろうが、今はそれなりの効果があるようだ、黒いビキニだけをまとった白い肌が赤く染まっている。
(・・・はぁ・・・)
言葉そのものというよりも、それが喚起する淫らな感触が由美子をとらえた。乳房から足の指先まで、男の指でまさぐられ、なされるがままに秘所を観察され、もてあそばれた生々しい記憶、まだ由美子の肌に残る毛むくじゃらの手の感触・・・
そして今、目の前で同じ奈落に堕ちようとしている親友のあられもない姿。
「ふぅぅぅ・・・」
由美子は切なげな長い息を付くと、羞恥とも欲望ともつかないものが赤く染めた自らの肌を隠すように両脚を手で抱えて小さくなった。薄い布地に隠された秘所が、絵美が受けた快感を受信したかのように疼いた。
(・・・)
素通しになったガラスの向こうで、絵美が目を開き、不安そうな視線を向けてくるのが見えた。
(大丈夫よ・・・たぶん・・・)
由美子は精一杯の笑顔を作り、親友を勇気づけようとした。その二人の様子を、となりに並ぶ男たちがニヤニヤと笑いながら眺めていた。
*
(由美子・・・ありがとう・・・)
助けを求めるように由美子の姿を探した絵美は、由美子がまだ待っていてくれるのをガラスの向こうに見つけて、心から感謝した。
あんな恥ずかしい思いをして、ホントなら一刻も早くここから帰りたいだろうに・・・そう思うと親友のありがたさに涙がこみ上げてくる。
さっきだって由美子は自分の裸を盾にして絵美を助けてくれたのだ。あの綺麗な、誰もがあこがれる身体のすべてをこんな男たちの視線で汚されながら。
(・・・んっ・・・ん!)
ももの内側を撫でつけられるゾワッとした感触が、絵美を自らの陵辱の舞台へと引き戻した。
オジサンの両手の指先はももの間に完全に進入している、それだけの隙間があるということの意味・・・それが絵美をふたたびショックのどん底に陥れた。
(もうやめて・・・見ないで・・・)
女としての自覚を持って以来、その場所を見ることを許したのはたった一人だけだったのだ。さらにこのままオジサンが両手を広げようとすれば、両脚もいとも簡単に広げられるのもわかっていた。
(・・・ほんとに・・・やめてぇ!)
今も隣で荒い吐息を必死で押し殺そうとしている瞳が、そして由美子たちが、どんなことをされたか絵美はよく覚えていた。
(・・・恥ずかしすぎ・・・るよ)
両脚を大きく広げられ、秘所に口づけせんばかりに顔を近づけて観察されながら、愛撫にも似たマッサージを受けている友達の姿。同姓ですら恥じらうその恥態を、こんなに大勢の、淫らで醜い男たちの視線に晒されるのは耐え難い屈辱だった。
(んんっ!)
太腿の内側を指先がツーッと撫でるように膝の方へ向かって動いていった。
四肢は相変わらず、絵美をこの恥辱から守るという行動を拒否するように、彼女の意志から遠いところにたたずんでいた。
(ああ・・・)
由美子も瞳も抵抗もせず、なされるがままになっていたのではない、そうならざるをえなかったのだ。
(・・・はんっ!)
褐色の指先が、絵美のふとももの柔らかさを確かめるように、クニ、クニと動きながら再び上へ向かってくる。絵美の意志を黙殺し続ける両脚は、白い肌を蹂躙する指先の感触だけは変わらずに・・・いや、普段以上に敏感に彼女に伝えてくるようだった。
(なんなのぉ・・・?)
ツボを押されるたび、肌を撫でられるたび、心地よさとおぞましさが全身を走り回る。
絵美は天井の一点を凝視して、落ち着きを保とうと必死だった。
(ううう・・・)
オジサンの指がどんどんアソコへ近づいてきた。
絵美にはもう、自分のされていることを見る勇気がなかった。
作業の間に太腿の間には子供のコブシほどの隙間が開かれていた。その奥に縦に走る絵美のヴァギナは、すでにその全貌をはっきりと見せているはずだ・・・オジサンと・・・そしてあの松山にも。
(・・・う・・・)
見ないでも、それぞれ指がどのようにおかれ、何をしているのかわかる・・・それほど絵美の感覚は鋭敏になっていた。
(・・・まだ!?)
オジサンの指は、いまにも絵美の股間に突き当たる位置へやってきて、そして・・・
「ひっ・・・んっ!・・・む・・・」
親指がヴァギナの上の襞をかすめるようにして動いた。絵美はふたたび声を上げそうになって必死に耐え、身体は反射的にビクッとはねた後でまた動きをとめた。
(いやぁぁ・・・こんなの・・・や・・・)
オジサンの指がヴァギナの横を、その下にあるクリトリスを挟み込むように刺激すると、信じられないほどの刺激が絵美の裸体を貫いた。
認めたくない事実だった。
先ほどから絵美を戦慄させていた刺激の中に潜む、淫らな誘惑のような快感の存在・・・
(・・・お願い、もうやめて・・・)
絵美は真っ赤になった顔をオジサンに向けて、潤んだ視線で懇願した。
(この人は他の人とちがって、私の嫌なことはしないはず・・・でしょ・・・?)
なんの根拠もないが、それしか頼るものはなかった。
(これ以上乱れた姿を見られるのは絶対イヤ・・・もう、いいでしょ?)
オジサンはその視線に気が付いたのか、開かれていた絵美の両脚をもとの位置に優しく戻した。
(・・・ありがと・・・)
左右の太腿と太腿がぴったりとくっつく感触が、絵美を少しだけ安心させてくれた。
「フィーニッッシュ♪」
そのとたん、隣の台から別のオジサンの声が聞こえてきた。
(えっ?)
横目で見ると、仰向けに寝かされた瞳の顔をのぞき込むようにしているオジサンの姿が見えた。
(おしまい・・・?)
本来なら瞳が解放されることを喜んであげるべきなのだろうが、それは同時に絵美がたった一人、全裸のままで男たちの中に取り残されるということでもある。
(・・・)
絵美は複雑な気持ちで瞳の方を見た。
瞳は一糸まとわぬ裸体を横たえたまま、動くのも面倒だというように横たわっていた。
(瞳ちゃん・・・)
堅く尖った乳首も、ローションに濡れた陰毛の茂みも、もはや隠そうともしていない。それどころか、投げ出された両脚は大きく開かれたまま、まさしく大の字になってすべてを晒していた。
もっとも、いまさら何を隠しても仕方ないのは確かではあった。先ほどの乳房への陵辱や、股間のすべてを開いて見せろと言わんばかりの両脚のマッサージ・・・この上何を隠せばいいのだろう?
自らの身体の、守るべきものをすべて喪失した瞳はオジサンが助け起こすまで起きることも出来ないままだった。
(かわいそうに・・・)
羞恥と涙で真っ赤になった瞳の顔を見て、絵美は自分の置かれた立場も忘れて同情した。
これでいいのだ、と絵美は思った。由美子も待っていてくれるから完全に一人で取り残されることもないし、絵美のオジサンは「当たり」だったのだ・・・
(たぶんだけどね)
ローションを補給していたオジサンは絵美の視線をうけてニヤリと笑った。
(・・・いずれにせよ、もうすぐこんな体験も終わりだもの・・・)
絵美は覚悟を決めてオジサンを待った。
「んっ・・・」
だるそうに起きあがった瞳は、目の前に横たわる絵美の裸体を見て、心配そうな視線を上から投げてきた。
絵美は恥じらいながらも「(大丈夫)」と口を動かした。
「・・・」
瞳も何か言いたそうだったが、オジサンに台に座れと急かされてそのまま口を閉じてゆっくりと体勢を変えた。
こちら側にむけて足をおろして座らされた瞳は、正面の素通しのガラスの向こうから遠慮なく注がれる卑猥な視線に気が付くと、ようやくのそのそと胸を隠そうとした。
「◎×」
「あっ!」
その細い二の腕を、彼女の後ろから回された毛むくじゃらの腕がつかみ、そのまま瞳の首の後ろあたりに連れて行く。
ムリヤリ背筋を伸ばされて、瞳の大きな乳房がプルッと揺れた。大きな釣り鐘型のおっぱいの先で、堅く尖った乳首がちょうど外の男たちの方へとツンと上を向いていた。
「フンッ」
オジサンはそのままの姿勢で、彼女の肘を持って左右に腰を回すように動かした。
「んっ」
コキュッと瞳の腰がいい音を立てるのにあわせて、プルンプルンと乳房が揺れる。島本から外の四人へ、そして松山へ、「見納めですよ」というように瞳の裸体を鑑賞させ終えると、オジサンはようやく彼女のいましめを解いた。
「ふうぅぅ・・・」
長いため息をついた瞳は、もう胸を隠そうともしなかった。
「◎×▲×●?」
「?」
オジサンが瞳の肩をもみながら、なにか話しかけたが、彼女はもちろんわからないという顔をした。
「□◎×・・・ンン・・・グッド?」
「・・・?・・・ああ・・・うん、グッド・・・」
どうやら、気持ちいいかどうか聞かれたのだろう、瞳はどうでもよさそうに答えを合わせた。
「●□▲×○●?・・・×□?」
その後もオジサンはなにやらいろいろと聞いている。瞳はめんどくさそうに、うんうんとうなずいたりしたが、本音は早いところ終わりにしたいに違いない。
「○×●・・・ハハハハハ!」
「・・・ははは・・・ハイハイ・・・」
会話(?)をしているうちに、ようやく正気を取り戻したのだろう、再び両腕で大きな胸を抱え込むようにして隠しながら、時々チラチラと絵美の方を見てくる。
(ひょっとして待っててくれてるのかな?)
その視線に自分への心遣いを感じて、絵美は申し訳ないような気分がした。瞳たちが受けた壮絶な陵辱の儀式に比べれば、絵美はまだまだ無事な方なのだ。
絵美のオジサンが膝から下の、最後に残された部分のマッサージに入った。
ゾワァァァ・・・という「不快な快感」が絵美の理性を逆撫でるように身体をはい回ったが、落ち着きを取り戻した絵美は、一瞬呼吸を止めただけで、それを受け流した。
(三人で帰ろうね・・・)
一人じゃないというのがこんなに心強かったことはない。全裸の二人の娘は、視線を合わせると照れたように微笑んだ。
「×□×●○・・・××?」
オジサンは性懲りもなく瞳に話しかけていた。通じないとわかっているのだろうか、時折「イェィス」「グゥッド」「ハァンド」など、カタコトの英語らしきものまで交えてくるがそれが意思の疎通に役立つとも思えなかった。
(変な発音ね・・・)
実際、せめて英語だけでも通じてくれればずいぶん状況は違ったはずなのだ。言葉が通じるのはよりにもよってあの松山だけ・・・
(そういえば、あの人は・・・知ってたんじゃないの?)
男の人がマッサージすると教えてくれたのも松山だが、それ以外にもあの男はいろいろな話をしていたはずだ。
(ひょっとしてこうなるのも全部知っていて、私たちが恥ずかしがる姿を見るのを楽しみにしてたんじゃないの?)
松山の下品なニヤニヤ笑いを思い出すと、その推測は間違いのないことに思えた。
(許せない・・・)
あの男の思うがままに事が進んできたのだと思うと悔しくてたまらなかった。
そしてその男に、自分の一番恥ずかしいところを観察されたことがあらためて耐えがたかった。
松山はまるで位の高い人間のようにまだ肩をもまれたままで絵美の裸体を見下ろしている。
(そういえば男の人たちのマッサージは?)
さきほど寝かされていた島本も再び起きあがらされ、瞳に向いて座ったままで背中を揉まれている。
「んっ!・・・」
ふくらはぎに走る悪寒が絵美の思考を中断させた。
「□×○▲○・・・ムンン・・・?!ベイビー!・・・ベイビー?」
「・・・ああ・・・ベイビーね。イェス、ベイビー」
オジサンの変な英語と、瞳の気のない答えが聞こえてきてそちらを向く。
「○×○□×!□○○ベイビー×▲×□?」
絵美に向かって苦笑しながら、瞳は適当に頷いていた。
「◎××イェイス?」
「はい、イェスイェス」
「フフン・・・Are you sure?」
「え?イェス、アイムシュア・・・」
思わず答えた瞳の背中でオジサンがほくそ笑んだ気がした。
「オケイ」
瞳の肩胛骨のあたりを揉んでいたオジサンは急に作業を止めると、台を回って絵美と瞳の台の間にやってきた。
(どうしたの?)
急な空気の変化に絵美と瞳は顔を見合わせるだけだった。
「プリーズ」
「え・・・ちょっ?」
瞳の返答を待たずにオジサンは裸の瞳を持ち上げるようにして、再び台に仰向けに寝かせた。
「終わりでしょ?」
「×○□・・・フフム」
オジサンはニヤッと笑うと、瞳の頭の下に枕を入れた。
(どうしたの???)
瞳も絵美も島本も、外の由美子や西田たちも何が始まるのかとソワソワとして瞳のオジサンの次の動きを待っていた。
(なんなの?)
絵美は一人だけこの事態を把握しているはずの松山ににらむような視線を向けた。
「ふん」
松山は、我関せずという顔で、なぜか横を向いていた。先ほどまでの行動から考えればあまりにも不自然だ。
(なんなのよぉ!)
聞いてみたいと思ったが、なんとなくこの男に頼み事はしたくなかった。
(教えてくれる???)
最後の頼りとばかりに、彼女の足首を握るようにツボを押していたオジサンの方を見る。
「×□×○□」
オジサンは絵美の視線に気が付いてなにか言ってくれたがもちろんわからない。
「(あれは何なの)・・・?」
絵美は視線を瞳の方にチラチラと向けて、オジサンに眼でたずねた。
「オオ・・・□×・・・◎×▲」
オジサンは絵美の質問を理解したようだが、どうにも答えがわからない。
(ああもう!)
絵美は途方に暮れた。
「×□×○シー・・・フィールグーッド」
オジサンはあきらめずに瞳を指さしてなにか言っている。必死に英語に直そうとしているようだがよくわからない。
絵美は首を振って
「ネバーマインド・・・(もういいわよ)」
とだけ言った。
しかしこの国の男はあきらめが悪い。ヘア丸出しのままで、ミイラのように腕を組んで寝ている二人を交互に指さしてさらに聞いてくる。
「□×○×▲・・・セイム?」
「セイム?・・・(同じ?)」
「◎×、フレンド、□○・・・シー?×○×・・・セイム?」
(なに?瞳ちゃんと一緒に旅行してるのかって?聞いてるの?)
絵美は彼女にしては珍しく多少いらついていた。松山がこの会話を聞きながら、例によってあのニヤニヤ笑いを浮かべているのが手に取るようにわかるからだ。
「セイム?」
オジサンはそんな絵美の思いにかまわずしつこく聞いてくる
「そう、シー、イズ、マイフレンド、セイムセイム」
絵美はそれで会話を切り上げようとして視線を瞳の方へ向けた。
「フフ・・・Fine, very good.」
「・・・え?」
あわててオジサンを見た絵美にオジサンはニコニコと笑いかけた。
(・・・何?)
その眼の中になにか不吉な陰がよぎるのを見て、絵美は自分がとんでもない過ちを犯したのではないかという予感に襲われた。
「くくっ・・・ふふふ」
足下に立つオジサンの向こうで、松山がこちらを見て笑うのが見えた。
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