第18話
(・・・やっぱりくるよね・・・)
当然予想される展開だった。
実際もうこのオジサンには隠しても仕方ないのだ。旅の恥はかきすて、もうあきらめて、なされるがままになるのも仕方ない。
(でも・・・)
問題はこのオジサンではなく、ほかの男たちの目なのだ。
今は素通しになったガラスの向こうから、まるで水族館の魚のショーでもみるように全裸の絵美を観察するいやらしい視線。中にいる男たちの、欲望を隠し通せないあさましい視線。そしてなにより、絵美の裸体を勝ち誇ったような表情を浮かべて見下ろしている松山の視線。
(なんでこんな人たちに・・・)
世間知らずの絵美といえど、男の性のメカニズムぐらいは一応知っているつもりだ。長い旅行の間、溜め込まれた欲望が彼らの股間を熱くしていることも想像できるし、彼らが絵美たちの裸を目に焼き付けて、これからどのように「使う」かもわかっている・・・
(・・・やめてよ・・・)
絵美はまるで目の前で「それ」が行われているかのように松山から視線をそらした。
「プリーズ」
オジサンはそんな絵美になおも優しく言った。
「・・・オーケイ」
絵美は小さな声で答えるだけだった。
最初からあきらめているつもりだった、だがいざそのときがくるとどうしてもそうできない。
(・・・)
オジサンを見ると、彼は裸のまま横たわる娘の警戒を解こうとさらににこやかなほほえみを浮かべた。
(この人はいいのよ・・・)
もしもこの場にあいつらさえいなければ、あるいはもっとはやく裸を隠すことをあきらめていたかもしれなかった。久美子さんも真理子さんも、瞳も由美子もみんなぜーんぶ見せてしまったのだ、もちろんものすごく恥ずかしいが、みんな同じならそれも仕方ないのかもしれない・・・そういう訳のわからない割り切りで一時の恥を楽しむことさえできたかもしれない。
絵美はそう考えて、ふたたび松山をにらみつけた。
「ふ・・・」
松山は全く動じず、逆に絵美にわかりやすいように足先から胸元まで視線をゆっくり動かして見せた。
オジサンは相変わらず優しい微笑みを浮かべていたが、かといって「もういい」と言ってくれるそぶりは全くなかった。
(うぅ・・・)
いっそのことムリヤリ右手を引きはがしてくれた方があきらめがついていいのにと絵美は思った。実際、絵美の両手は誰かが動かそうとすれば、まったく抵抗できない状態にあったのだ。
(・・・・・・)
(・・・・・・)
だがオジサンは全く動かずに、絵美が隠している大事なところを自ら明け渡すのを待っていた。まるで、そうすることに意味があるように。
(・・・もう・・・!)
絵美はようやく観念して、力の入らない腕を動かそうと努力を始めた。
ゴクリ・・・松山が生つばを飲み込むのを、最後の抵抗とばかりににらみつけるのは忘れなかったが、ニヤリと笑って見返されるとついに視線をはずした。
(・・・くやしぃ・・・)
全裸で仰向けにされた姿を、好きでもない男に見下ろされるというのは信じられないほどの屈辱感だった。
サワッ
指先を柔らかい自分の陰毛の触感がくすぐった。
まるで本当に彫刻の女神像にでもなったかのように力の入らない美しい腕は、指先の感覚だけを残したままゆっくりと絵美の下腹から上へ、肌をなでるようにして動いていった。
(・・・ぅぅ)
絵美はチラリと松山を見た。松山はそれにも気づかず、明け渡されたばかりの秘密の花園をくいいるように覗き込んでいる。
(あ・・・見られた!・・・)
覚悟したつもりだったが、顔が真っ赤になり、心臓がバクバクと鳴りはじめた。
最後の力を振り絞り、両手で胸を隠したころには、絵美の視界にも自分の裸体の上の黒い茂みと、その向こう側からニヤニヤとこちらを見ている松山の顔が縦に並んでよく見えた。
(ぅぅ・・・もぅ・・・)
絵美は目を閉じて、現実を直視するのを避けることしかできなかった。
*
そのときの絵美の表情に浮かぶ悔しさと恥じらいを松山は大いに満足して眺めた。
(ほら・・・見えるぞ、全部。悔しいだろう?フフフ・・・)
細い指先の動きを追うように、照明が絵美の秘所を照らし出していく。
(ほお・・・)
隠されていた部分は彼女の裸体のほんのわずかな一部だけであった。陰毛は絵美の下腹部と股間の間のほんの僅かな箇所に固まって、うっすらと黒い三角形の茂みを描いている。
ペロリ・・・
松山は舌なめずりをして生け贄の観察に集中した。
絵美のヘアは彼女のイメージを壊さなかった。控えめで、そして薄い。黒々とした瞳のそれと、きれいに手入れされた由美子のそれ・・・女の下の毛っていうのはいろいろな形があるものだ、と松山は思った。
(でも生えそろってないっていうのでもないんだよな・・・)
松山は観察を続けた。今日一日だけで、何人も女の裸を見たが、その中でも絵美の毛は細い、そのせいだと思った。
(そして付いてるもんはちゃんとある、と)
ヘアの先の、白い肌がそこだけ薄い赤茶色に染まっている部分、そこにははっきりと縦にはしる絵美のヴァギナの姿が見える。
白い絹地のような絵美の肌で、その部分だけがいかにも異質だった。
まるで、彼女を造形した神様がその部分だけ後から付け足したように、絵美のヴァギナは生き物の生々しさをたたえて彼女の裸体の表面に浮き出ているようだ。
そしてそこだけが、この美しい裸体が、性の機能を備えていることを強く主張しているようだった。
薄いヘアがわざわいして、松山の視線は彼女の股間の谷間をかなり見渡すことができた。
(あの割れ目のいちばん上のあたりがクリトリスか・・・)
頭でっかちな知識は、閉じられた肉の襞の下に隠されているものの存在を伝えてきた。
その下のほう、必死に閉じられた股の間には男の肉棒を受け入れる場所がある。松山は両股に隠されたその部分にむしゃぶりつく自分の姿を想像した。
あの柔らかい毛にほおずりをして、あの下の口を舐めあげてやりたい・・・そうしたらどんな味がするだろう。
再び舌なめずりをする松山を、絵美がおびえる眼で見ていた。
*
由美子が外に出ると男たちは部屋の真ん中に戻り、ちらちらと彼女の水着姿を盗み見てきた。
(こいつらは・・・)
さっさと出て行こうとした由美子は、そこで立ち止まって友達を振り返って、愕然とする。
(え・・・丸見えじゃない!)
股間を隠す絵美の姿と、餓えた男どもを交互に見て、彼女は即座にそこにとどまることを決めた。
(こいつらには監視役が必要・・・)
ところが監視されるのは彼女の方だった。
西田の隣に腰をかけた由美子を男たちは最初こそ「じゃまだな」と恨めしそうに眺めたが、すぐにその視線は欲望のまなざしに変わり、由美子のビキニを透視しようと彼女の肌をなめ回した。
キッ!
由美子はにらんだが、今度は男たちの勢いに負けて視線をそらす。
「どうもぉ」
西田がからかうように由美子に声をかけ、仲間の二人はニヤニヤと笑った。
つい先ほどまで彼女の裸体の隅々を観察していた男たちの脳裏には、まだはっきりと由美子の乳首や陰毛の姿が残っていた。
さらに松山に視姦されながら着替えたため、黒いビキニは肩ひもがねじれ、おしりも半分はみ出そうだ。その乱れが陵辱のあとのように、由美子の肌にまとわりついていた。
(・・・)
由美子は西田を無視して視線を前に向けていた。
もともと彼女はこの西田という男が好きではなかった。いや、嫌悪感を禁じ得なかったといってしまってもいい。
とはいえそれは必ずしも西田のせいばかりではない、由美子にはかつてこういうタイプの男とつきあった過去がある。勢いで寝て、しばらくつきあって、そしてご多分に漏れず相手の浮気が原因でひどい別れ方をした。
つきあっている間、ほとんどろくな話もしなかった。ただ会って、文字通り腰が動かなくなるまでセックスした。あらゆる性感帯を開発され、あらゆる体位をためされ、親友の絵美にもいまだに話せないほど淫らな行為を楽しんだ。
「ふぅ・・」
由美子はため息をついた。
西田はそんな由美子を横目で見たが、由美子は冷たい視線をチラリと向けるだけだった。
西田にはその男を彷彿させる匂いがある。ヤった女の数、イかせた回数、そんなものしか自慢することがない男の匂い。それが由美子を不快にさせた。
そしてなによりあの獣のようなセックスを、快感以外に何も存在しないあのときのセックスの記憶を、まだ自分が求めていること・・・それを思い出させられるのがたまらなく嫌だったのだ。
(絵美に知られたら軽蔑されるかな・・・)
親友は、いままさに陵辱の祭壇の上で、白い裸体を晒されているところだった。
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