第17話
由美子は濡れてはきにくくなったビキニに焦っていたが、弱みを見せるのを許さない彼女の矜恃は、それを隠すためのけなげな努力を彼女に強いた。
(・・・!)
結果、焦るあまりバランスを崩して松山にさらに近づいてしまってからも、あわててそこから離れるという行為に潔さを感じられずに、その危うい距離にとどまらせたのであった。
(・・・おっ!)
松山は近寄ってきた彼女の裸体に驚き、歓喜したが、それ以上の行動は取らなかった。
「・・・」
「・・・」
お互いに冷静を装ってはいたが、全裸の男と女にはそれぞれ周囲の想像以上の葛藤があったと言っていい。
松山にとっては、生の女の裸を見るのは初めての経験である。文字通り目と鼻の先に晒された由美子の裸体はそれだけでも興奮ものであり、それはすでに十分に愛撫されて生々しく性的好奇心をそそった。
(むうう・・・)
一方でさすがのこの男にも手を伸ばして彼女の肌を直接楽しむだけの度胸はなかった。おいしい獲物を目の前にしておあずけをくいながら、どうしていいか分からずに命令を待つ飼い犬のように、彼は座ったままの姿勢で固まっていた。
由美子にとっては男の裸はもちろん初めてではない、だがそれはもちろんこんな異常な状況以外での話である。
自分の裸を見せつける決意をしたときの由美子は、それで興奮する松山の惨めなやせっぽちの裸体を哀れんでやる、ぐらいの気持ちだった。
だが、先ほど目の前で見た松山のイチモツの想像以上の立派さが彼女の計画に微妙な狂いを生じさせていた。
(・・・!)
下を見ると、すぐ目の前にその醜い物体が見える。今や彼女の裸体は、松山の開いた両膝の間に挟まれんばかりの近さにあり、今にも肌と肌が触れあいそうだ。
(くっ・・・)
経験がある分だけ、由美子にはこの距離で素っ裸で立つことの意味がよく分かっていた。
チラリ・・・
由美子は再び下を見た。赤黒く、不気味なツヤをたたえながら昂ぶる男根が真っ直ぐにこちらを向いている。
(嫌・・・)
言ってみればここはすでにお互いのテリトリーの中であった。身を守るものを脱ぎ捨て、全てをさらけ出す場所のはずだった。
当然次の一手も由美子には想像できてしまう。
このまま男の股の間にひざまずき、勃起したペニスを舐め上げ、ゆっくりと口に含む自分の姿。あるいは男を抱きかかえるようにしてまたがり、座ったままのペニスを自らの蜜壷に受け入れ、激しく腰を振る姿。
「ふぅぅぅぅ・・・・」
由美子は大きく息をついた。いつもの性欲・・・だが唯一の違いは目の前にいる男が、自分がもっとも嫌いなタイプの男であると言うことだ。
(嫌よ・・・)
にもかかわらず、彼女には目の前にある「それ」をくわえたときの熱さも、身体の中に侵入してくるときの硬さも、勝手に想像できてしまっていた。
「あ・・・」
ようやくビキニをはきおえたとき、自らの秘所に今湧き出たばかりの液体の感覚を感じて小さな声を上げた。認めたくなかったが、由美子自身もすでにマッサージでたかぶらされている。それがそんな淫らな想像を無意識にさせてしまうのだろうと思いたかった。
*。
絵美の位置からは全裸の由美子の後ろ姿だけが見える。男の前に棒立ちになって裸を晒す美女の姿は、まるで映画かなにかで見た淫らな儀式のように見えた。
(由美子・・・)
もちろん、彼女には由美子の意図がすぐに分かった。
(ごめんね・・・)
心の中で感謝して不自由な身体の回転を完了させることに集中する。
「ぁ・・・!」
身体をひねった瞬間、白い乳房の上の明らかに色の違う部分が僅かに光に照らされた。絵美はあわててこぼれそうになった乳首を左手一本で隠す。すると今度は右手がずれて、一瞬ヘアが完全に明らかになる。
「・・・!」
絵美はそーっと周囲を見渡した。由美子のおかげで誰も気がついていないようだ。先ほどまでガラスに張り付いていた男たちも、いつの間にか開かれたドアの方へ群がって、由美子の裸を直接見られる角度を取り合っている。
(よいしょっ)
それを見た絵美は今がチャンスとばかりに一気に身体を回して仰向けになった。
(・・・まぶしい・・・)
再び、目がくらむような照明に照らされ、身体を隠した両手の位置を確認する。
(それにしても・・・なんでなの?!)
身体が重い、四肢が思うとおりに動いてくれない。
絵美は右手で股間を隠したまま足先を軽く動かそうとした。
(んっ)
伸ばされた細い両脚がけだるそうに動いて閉じられた。だがその反応は明らかに鈍い、まるで神経が途中でどこか遠回りをしているように、心と肉体の動きに時差があった。
(なんで?!さっきのマッサージのせい?!)
絵美は混乱の中で、由美子や瞳が男たちのなされるがままに裸体をもてあそばれていたわけを理解した。
この・・・彼女はちらりと自分の横で手桶をかき回すオジサンの姿を見た・・・このオジサンは他の人たちよりも優しいみたいだった。でも、もしも彼が私の手足を好きに動かそうとしたら・・・
(抵抗できない・・・)
絵美は隣のベッドで股間をのぞき込まれるように片脚を持ち上げられている瞳の姿を見た。
(ああ・・・)
島本は今は横になっているが、顔は瞳の下半身へ向けられている。自分の足下にいる松山も、当然同じ視線を向けてくるはずだ。
(お願い・・・早くして)
どうせ逃げられないなら早くすましてしまうしかない。由美子の犠牲を無駄にしないためにも、彼女が作ってくれたこの時間のうちに・・・
「○×□〜♪」
だがオジサンは、まるで何かを待っているかのようにのんびりと手桶の中をかき混ぜるだけだった。
焦る絵美の視界の片隅で、黒いビキニのブラが由美子の引き締まった上半身にかけられた。
(由美子・・・)
背中の紐を留める由美子の指先が震えている。こんなところでよく知りもしない男たちに全裸を晒して、いかに由美子だって恥ずかしくないわけがない。
絵美はあらためて親友の自分を犠牲にした行為に感謝した。
(・・・!)
だが、それもつかの間、由美子の裸体を鑑賞し終えた男たちの視線が一斉にこちらを向くのを感じた。
ドタドタドタ・・・!
隣の部屋からせわしない足音が聞こえ、再び四人の男たちは絵美のすぐ横のガラスに張り付いてこちらを観察し始める。
(え・・・?)
絵美はその男たちの姿を見て息が詰まるかと思った。
(うそ・・・?うそっ・・・!)
由美子の英雄的行為にはいくつかの誤算があった。
ひとつは時間稼ぎの結果として彼女自身の肉体を男たちの前に差し出さねばならなくなったことであるが、もう一つは、その間ずっと入り口のドアを開け放したままにされていたことであった。
その結果が今、絵美を愕然とさせている。
(丸見えじゃない!)
二つの部屋を隔てていたガラスからはすっかり曇りがとれて、四人の男たちはすぐそばに立っているのと同じように見えた。
(!!!)
当然向こうからも絵美の裸は丸見えなのだろう、西田と須藤はニヤニヤと嫌らしい笑いを隠そうともせずに絵美が必死に隠している部分を指さしている。
(もうイヤ・・・イヤァ・・・)
状況は悪化の一途をたどっていた。
小さな黒いビキニでかろうじて身体をかくし終えた由美子は、オジサンに急かされるように出口へ向かわされた。
「ふふん」
後にはペニスを欲望でたぎらせた松山が勝ち誇った視線をこちらに向けている。
ヒヒヒヒヒヒッ・・・
外の男たちはすぐそばで、やはり絵美の裸体を舐め回すように見下ろしていた。
(いやぁ・・・)
絵美は頼りない両腕に必死で意志を送り込み、身体を小さくしてその視線から逃れようと無駄な努力をした。
「ふ・・・」
だが、無意識に膝を軽く曲げ、顔を赤らめる恥じらいの姿は、男たちの欲望の炎に油を注ぐだけだった。
絵美は瞳の方を見た。
(もうすぐ終わり・・・?)
対して自分のオジサンはまだ作業に入ってくれさえしていない。早くしなければ一人で裸のまま取り残されてしまう。かといって作業が始まれば、またこの隠している手をどかさなければいけない・・・。
そして、いくらやさしいからといって、このオジサンがどんなマッサージをするつもりなのかは全く分からないのだ。
(だって・・・だって・・・)
他の人たちと同じように、何もかも丸見えで恥ずかしい格好をする自分の姿を想像すると気が遠くなりそうだった。
バタン
由美子が心配そうにこちらを見ながら出て行くと、ようやくドアが閉じられた。
「オーケイ」
すると、オジサンはまるでそれを待っていたといわんばかりにようやく絵美の方を向いた。
(来た・・・!)
早くして欲しいと思っていたのを忘れてしまったかのように、そのオジサンの言葉で絵美の目の前は真っ暗になった。
「ゴホン」
松山が咳払いをした。
おおおおおお・・・
外では男たちの歓声が聞こえた。
最後に食べようととっておいた好物にようやく手をつけるときのように、男たちの溜め込まれた性欲のたぎりが絵美の真っ白な肌に向けられていた。
(ああ・・・)
生贄の台に乗せられた絵美の視線は逃げ場を探してさまよったが、もちろんそんな場所はあるはずもなかった。
「オーケェイ・・・」
そんな絵美にオジサンはやさしい声で、絶望的な宣告を告げる。
「プリーズ」
オジサンは絵美の股間を隠している手を指さして、それをどかすように言った。 (・・・!)
男たちの視線は絵美の柔らかな曲線を描くウエストの中央に置かれた右手に集中した。
ピクリ・・・
絵美の右手の、長く細い指先がかすかに震えるのが見えた。
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