第11話
島本が通過した。
絵美はシャワーが止まるのを待ちきれないように、いそいで髪をあげていた手を股間に戻した。
(今のうちに!)
チラリと目をやると、島本は壁の方を向いてためらいがちに海パンを下ろしている。
(!・・・もうっ)
見たくもないそのぶよぶよしたお尻からあわてて目をそらし、両手を裸の身体にぴったりとつけたまま器用にうつ伏せに台に寝る。
(あんっ・・・)
胸の前の手をどかすと、乳首が再び冷たい台に触れた。
だが絵美はかまわずに、裸体をシャワーで冷やされた台に押しつけるようにして横になる。
(ん・・・)
すこし躊躇したが、両手を身体の横におき、こんどは最初から足首を組むこともあきらめて無防備な後ろ姿を晒してみせた。
(これでいいでしょ!早くしてよ!)
絵美はうつ伏せのまま急かすようにオジサンの方を見た。
「〜♪」
だが、オジサンは鼻歌を歌いながら桶の中をかき混ぜているだけで、絵美の睨むような視線にも気がつかない。
(はやくぅう・・・)
絵美は焦っていた。
混乱した頭でこの状況を冷静に分析してみたが、このままだと次に終わるのは足下に寝ている由美子で、この調子だと、そこにまた誰かが呼ばれることは十分考えられることだった。
さらに、順番から行って、下手をすれば男だらけの中に裸で取り残されることにもなりかねない。
最良の方法は、とにかく無駄な抵抗はやめて、さっさと作業を終わらせてもらうことだった。
(もう、いいから早くしてよ!)
高校時代から優等生で通ってきた彼女の頭脳は、追いつめられながらもそう分析した。
絵美の無抵抗はそのためだ。お尻も、ヘアも、すでに見られてしまった。島本にもどうせ隠しきれない。だったらせめて少しでも被害を減らす方法をとるべきだと思った。
(もぉぉ・・・)
だが、絵美の意向に反して、オジサンはまったく作業を開始しようとしない。
シャワーで濡れていた背中が乾いていくのを感じながら、絵美はひたすらに待った。
おそるおそる左に視線を送ってみる。
(・・・!)
海パンを着た男たちの姿がガラスにへばりついているのがはっきり見える。本当にすぐ近くだ。ニヤニヤ笑っている表情すら見える気がするほど、ガラスの曇りも薄くなっていた。
「いゃ・・・!」
先ほどの悲壮な決意をくじかれそうになって、絵美は思わずつぶやいた。そして、真っ直ぐそろえて伸ばされた綺麗な両脚をぐっと力を入れて閉じた。
見苦しい男たちから視線をそらすように、頭の向きを変えて右側を向くと、頭上の台にこちら向きに座らされた島本の姿が見えた。
・・・全裸だ、見たくもない、全裸だ・・・
(き、きゃぁぁぁ!)
絵美はあわてて視線を瞳の寝る右側の台に向けた。島本の股間には、およそ身体に似つかわしくないほど小振りな醜い突起が、精一杯上を向いていたのだ。
だが、瞳の置かれている状態はさらに衝撃的だった。
瞳の腕はいつのまにか身体の横に置かれていた。
絵美からは彼女の左半身しか見えないが、身体の上には右手の姿もない・・・。
つまり、瞳は裸体を隠していた両手をすっかりどかされて、なすすべもなく仰向けになっていた。
(瞳ちゃん・・・?)
唇を?みしめるように固く閉じられた口元以外、瞳の表情はよく見えない。だがその顔が羞恥に歪んでいるのは間違いなかった。
瞳のあちら側に立ったオジサンの両手は、なすすべもなく照明に照らし出された瞳の胸をお腹の方から上に持ち上げるようにして動いている。
瞳の裸体の上にはローションが照明に照らされて光り輝いていた。
(う・・・わ・・・)
絵美は言葉を失った。
オジサンの毛深い両手が白い肌の上をニュルニュルと滑りながら乳房をもてあそぶ。大きな手のひらに納まりきれない乳房が、その頂点に突き出した小さなつぼみごと揺れ動いた。
そこには女性に対する配慮という物はまったくなかった。むしろあるのは、「若い女の裸体」に対する、明らかに性的な意識だった。
オジサンの手は次第に瞳の乳房を登っていき、やがてプックリとふくれあがった乳輪の外周に到達すると、その裾野をなめるように指の腹を動かした。
「はぁんっ!」
瞳はたまらずに大きな息を吐くと、身体をピクっとちいさく震えさせた。
先ほども同じようなことをされたが、今度はむき出しの指先でである。それはもはや、愛撫以外の何ものでもなかった。
ローションに濡れた手は再び瞳の乳房の麓に降りると、大きなふくらみを両手でもみ上げるようにしながら、ゆっくりゆっくりとその肌を味わうように登っていく。
「ん・・・ンぅ・・・」
瞳の閉じたままの口から荒い吐息とともにくぐもった声が漏れる。
「はっっ・・・んん」
伸ばされた手足の指先が、時折ピクリと何かを求めて動こうとする。
乳房を登るにつれて、オジサンの手は獲物をねらうかのような慎重さで動きを緩やかにしていく。
だが五本の指と手のひらの、複雑な、まるで多足動物のような動きがもたらす刺激は、絶え間なく瞳を責め続ける。
「あぅっ・・・!」
瞳の口から明らかなあえぎ声が漏れた。オジサンの指が再び乳輪の膨らみをかすめるように円を描く。乳首が次第に硬さを増していくのがここからでも分かる。
明らかにただのマッサージとは違う快感が、瞳の中で生まれ始めている。それがどれほどの屈辱か、絵美はまだ考えたくもなかった。
(瞳ちゃん・・・大丈夫?)
なにが「大丈夫」なのか分からないが、絵美は心の中で瞳に言った。
瞳は顔を向こうに向けて、この恥辱の儀式に耐えている。
相変わらず、時折荒い吐息とともに指先がピクリピクリと動いていた。
まさになされるがままだ。
しかもその姿は、まるであつらえた観客席のように彼女を見下ろす位置に座る島本から丸見えなのだ。
絵美はどうしようもない不安の中で、そんな瞳から目を離せずにいた。
自分だけは違う・・・そう思いたかった。
乳房への愛撫はそうとうに念入りだったが、やがてオジサンの手がゆっくりとその動きを止め、最後に感触を楽しむようにフニッと力を入れて全体を揉むと、ようやく胸を離れておへその方へ向かう。
「んん・・・」
くすぐったいのか、瞳がまた声を上げた。
オジサンはかまわずにおへその周囲で数回指先を円運動させると、さらに下を目指す。
(あっ!)
すぐに瞳の、黒々と茂ったアンダーヘアにたどり着いた。
「う・・・」
瞳の身体に力が入る。
だがオジサンはまったく気にも留めないというように、指先をその茂みに侵入させると、瞳の秘部を目指して両手を移動させた。
(うそぉ・・・!)
絵美の見ている前でオジサンの指先が瞳の股間の谷間に沈んだ。
「あっ!・・・ィヤ・・・」
裸の身体がビクリと大きく揺れ、オジサンの口元がニヤリと笑うのが見えた。
(!)
その瞬間、絵美は自分の不安が正しいことを理解した。
この異国の男は、明らかに瞳の裸をもてあそび、楽しんでいる・・・。
あらためてみれば、こっちの人は老けて見えるだけで、オジサンと言っても三十そこそこぐらいの歳かもしれない。目の前で、二十歳前後の女があられもない姿で寝ているのを、何も感じずに見るのは難しいのではないだろうか。
『ダイジョウブ、プロフェッショナル』
さっきの言葉が思い出された、でも・・・
(マッサージのプロだって、男は男だもん!)
眼をそらそうとしていた彼らへの不信感が再び頭をもたげた。
三十のオジサンが瞳の股間の両手をさらに滑り込ませるのが見えた。
(ひと・・・・・・えっ!)
そのとき、絵美の背中に何か気配を感じた。
(あっ・・・!)
背中の上にいきなり生暖かい液体が垂らされた。
間をおかずに、明らかに動物の手だとわかるものが不気味な感触で肌の上をなで回す。
生暖かい液体が裸の背中の上をおおうと、今度は10本の軟らかい突起物が絵美の裸体を這い回りながら上下に移動する。
(あん・・・はじまった・・・)
絵美は唇を固く閉ざして、不安に耐えるのに必死だった。
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