第1話
某国、湯気が立ちこめる室内。水着姿の女性たちが数名、ほてった身体に汗を浮かべながら何かの順番を待っている。
部屋の中はさほど広くない、日本でいえばちょっと広いリビングぐらいの大きさだろうか。白いタイル張りの部屋の中央、畳二畳ほどの大きさの台の上に日本人と思われる若い女の子が3人座って、反響する声を気にしながらなにやらひそひそと相談をしているようだ。
「わたし、こういうの初めてなんですよぉ」
白いビキニを着た娘がつぶやいた。小柄な娘だ、ちょっと見ると高校生かと思うような幼さが残る顔から不安そうな視線を他の二人に向ける。
「そっかぁ・・・私たち○○でこんな感じのしてもらったけど、確かに結構恥ずかしかったっけ?ねえ、絵美?」
スラリと背の高い、黒い水着の娘が3人目の娘に微笑みかけた。
「由美子は楽しんでたけどね、私はガチガチだったわよ。」
色白の肌に水色のビキニを着た絵美は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫、今日は3人だから、ね、瞳さん?」
絵美はそう言うと白い水着の娘を力づけるように笑いかける。
「はぁい、おいてかないでくださいね。」
瞳と呼ばれた娘は硬さが残る笑顔を浮かべた。
3人の水着の女は△△国のツアーに参加した仲間どうしだ。由美子と絵美は大学の仲間同士、ツアーで一緒になった瞳は短大の女友達と二人で参加していたが、その連れはここにはいない。いわゆる体調不良というやつらしい。
10日間のツアーもすでに日程の後半に入り、今日は古くからの温泉療養地としてしられるこの地に宿泊し、明日には日本への帰国の途につく予定だった。
ホテルのサービスに、この温泉地名物のアカスリ&マッサージというのを見つけたとき、4人は同じテーブルで食事を取っていた。若い女性は4人だけだったこともあり、4人とも以前からの友人のようにうち解けて話ができるようになってきていたのだ。いつもの調子ですぐ乗り気になった由美子に、絵美はあきらめながらつきあうことを決め、友人が参加できずに迷っていた瞳は半ば強引につれてこられたのである。
「大丈夫!・・・ほら、旅の恥はかき捨てっていうじゃない」
「由美子、それフォローになってない」
3人の笑い声がたちこめる湯気の中を響いていった。
絵美も瞳も、不安は不安だがそれなりに楽しみでもあるのだ。旅の開放感は女を大胆にする。
彼女たちの水着にもそれが表れていた。準備よく黒のビキニを持ってきていた由美子以外は、経由地のヨーロッパで急遽購入することにしたのだが、店員と由美子の口車にのせられて買ったそれは、普段の瞳や絵美からは考えられないほど大胆なものなのだった。
3人のうち、由美子は大柄でモデル体型、そして美人、そしてそれを十分自覚もしていた・・・
「男の視線をみてるとおもしろいのよ」
学食や教室でミニスカートから伸びる脚を巧みに組み替えながら、由美子はよく絵美にささやいたものだった。そんな由美子が自分を引き立てるために選んだ、細いヒモと三角形で構成された黒ビキニは、彼女自身が美しさともあわせて国内のプールやビーチではかなり人目をひくのはまちがいない。
ところがその横にちょこんと座る瞳の水着はさらにすごかった。おっとりとしていていかにもおとなしそうな瞳の顔に似合わず、由美子のそれよりも小さいのではないかという、白い三角の織り地を紐で結んだだけのトップと、お尻が隠しきれないんじゃないかと心配になるちいさなボトム。「・・・ビキニってはずかしいんですけど」と渋る瞳をほめてすかして無理矢理選ばせたのはもちろん由美子の仕業である。
絵美はというとこちらもなかなかだ。野性的で行動派美人の由美子に対して清楚なお嬢様の雰囲気を漂わせる彼女は、薄いブルー地に上品に花柄があしらわれた、いかにも「らしい」生地を選んではいた。問題はそのカットだ。細身で真っ白な身体の前に三つ、後ろに一つの三角形が、それぞれ完全に独立して肌にぴったりと張り付くように存在するほかは、それらを結ぶ細い紐どうしがかろうじて結ばれているだけだ。「瞳ちゃんがあれだけがんばってるんだから、絵美はこれぐらい大胆なのに挑戦しないとねぇ」そんな由美子の一言にくわえ、瞳にまで同調されて勧められ、断り切れなかったのだ。
(絶対日本じゃ着れないじゃないの・・・)
あとで後悔して由美子に文句を言ったが、この二人はいつもこんな感じでそれでも仲良くやっているのだ。
そんなわけで、今この部屋の中央には三人の美女が、汗をしたたらせる身体にわずかな布きれだけをまとい、身を寄せ合うように座っているのである。
「それにしても、結構時間かかるわねぇ、どういうことよ」
部屋の中が自分たちだけになると、由美子がそういって口をとがらせた。
「そうね・・・今日は混んでるのかしら?」
なだめるようにそう言うと、絵美がガラスで仕切られた隣の部屋の様子を見に行った。
この部屋の一方の壁は一面ガラス張りで隣の部屋と仕切られており、その隅に隣の部屋へ扉がある。アカスリマッサージの希望者は順番がくるまでこのサウナで待ち、自分の番になったら隣の部屋でマッサージを受ける仕組みだ。
今、中には4人の女性が入っているはずだが、仕切りのガラスは湯気で曇っていて中の様子は何となくしか分からない。先ほどから見ている限りでは、中にはベッドのような台が四つあって、みんなそこに寝かされているようだ。
「まだみたいねぇ、男の人たち、待たせて悪いわね」
絵美は戻ってそう報告すると、壁に掛けられた時計に目をやった。すでに9時を回ろうとしている、女性専用時間が9時までということで急いでやってきたのだが、どうやら男性陣を待たせることになりそうだ。
「いいわよ、ロクな男いなかったし」
由美子は笑いながらそう言ったが、さすがに不安になったのか後ろの入り口の側を見た。
「ひどいわねえ、聞こえても知らないわよ」
絵美はそう言ったが、否定も肯定もしなかった。
「でも、そう思わない?瞳ちゃん」
「え・・・?あ・・・ちょっと」
いきなり話をふられて瞳もあいまいに答えた。
まあ無理もない、同じツアーの男性陣を客観的に見れば、由美子の意見はもっともだといえる。
「ほーら、でしょ?」
・・・そのとき、曇ったガラスの向こうで1人の女性が立ち上がるのがみえた。裸の身体にブルーのワンピース水着をいそいそと着る姿がぼんやりとうつる。
「あら〜、いよいよだわ」
由美子はそう言うと、恥ずかしいという顔を作って、黒いビキニの上から胸を押さえた。
そう、マッサージは「全裸」で行うのだ。向こうの部屋に入ったら、まず最初に水着をすべて脱ぎ、すっ裸になって横になる。曇りガラス越しの観察によると、どうやらそう言う流れらしい。今水着を着ている彼女が出てきたら、次は由美子の番、そして瞳、絵美と、さきほどジャンケンで決めたとおりに、三人の乙女は順番にすっぽんぽんにされてマッサージを受けるのだ。
「気持ちいいけど、なんかちょっとねぇ〜ほほほ」
中から出てきたおばさまが、照れ隠しのためか聞いてもいないのにそう笑いかけてくる。
「ですよねぇ」
3人の娘は笑って返した。
「ネクストプリーズ」
おばさまのあとから、白衣がはち切れそうな巨体のオバチャンが手招きをした。由美子は手で合図して答えると、
「じゃあ、一番手、行きます」
陽気に言ってガラス戸の向こうへ消えていった。
残された二人が不安そうに中の様子を凝視していると、由美子は部屋の右手の、先ほどまでおばさまが寝ていたベッドの方へ案内され、なにやら指示されて、水着を脱ぎ始めた。背中に手を回し、細いヒモを留めていたホックを外す。
ほとんど日焼けしていない肌に黒い水着というコントラストのせいもあってか、脱衣の様子がよくわかる。背中に張られていた紐が外される「プツッ」と音が聞こえてくるのではないかと絵美は思った。
首の後ろの紐がほどかれ、黒いビキニが彼女の身体から完全にはずれされた。ガラス越しでも分かる見事な形のおっぱいの上に、乳首の陰がうっすらと浮かんだ気がしたが、それはすぐに片手で隠された。
外したブラを壁のフックに掛けると、由美子はその壁を向いたまま一気に下の水着を引き下ろす。白いヒップが露わになり、やがて彼女の裸身がぼんやりとした影となって曇りガラスに浮かび上がった。
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