その4@


ああ…今更だけど…ちょっと後悔。僕はダメ教師だ。あれほど生徒に手を出す教師を嫌悪していたのに…何度か その手の噂にあがる寺田先生を同僚として恥ずかしく思っていたのに。 僕は、ほんとに手を出してしまったんだぁ〜…あぁ、三人組の事を怒る資格も無い。せめて…せめて相原が卒業 するまで我慢できなかったのか…だ、大体、相原を男に戻すって思っていたはずなのに! 「センセ、おはようございます!…どうかしました?」 「うわ!?」校門に入ったところでいきなり声をかけられ、しかもそれが相原だったので心底驚いてしまった。 「お、驚かしちゃいました?ごめんなさい」 「いや、あの、ちょっと考え事してたもんだから…大丈夫だ。おはよう、あ、相原」 まだ心臓がドキドキしている… 「昨日は、ありがとうございました」「いや、あの、その…」言葉にならない。 「今日も、送っていただけますよね?」僕の顔を覗きこむ相原。無邪気な笑顔。て、照れる。 「あ、あぁ。まかせとけ!」とりあえず虚勢をはる僕。声が上ずってる。 「うふふ、…じゃあよろしくお願いしま〜す」そう云って生徒用の昇降口へ駆けて行く相原。 僕はぼぉっとしながらその後姿を眺めていた。 元男…関係無い。彼女は今、僕にとってとてもいとおしい、可愛らしい存在だ。もう悩まないぞ。相原…好きだ。 夕焼けに背を照らされながら黙って歩く…僕達は校門を出てからほとんど話していない。しかし何も云わなくても、通じ合ってるんだ。だから…僕は何も云わずに、行き先を僕の部屋にする。バスを降りた相原は、僕の手を 掴み寄り添って歩く。女の子とこうするのって久しぶりだな…恋人同士みたいだ…恋人?…そう恋人だ。愛して るんだ。 部屋に入るやいなや、僕は相原を抱き寄せキスをする…1日我慢したんだ。教室でお前を見るたび狂おしいほど の思いにかられていたんだ。 「はむ、うむ、う、あ、あん…センセ、ちょっと待って、ね、先生?」 「ごめん…いやだったか?」「そうじゃないけど…まだ時間はあるから」「うん」 「先生…昨日、見れなかった絵見たいな、あたし」「え!?」 「先生、駄洒落面白〜〜い!」「…いや、洒落じゃないんだが…その」 「喉も乾いちゃった。なんか飲み物ありません?」そう云ってキッチンへ向う相原。そ、そっちは汚いんだ! 「あ、相原、僕が用意するから!向こうで座ってろ!な?」「…えぇ」 不可解そうな顔で部屋に入る相原…流し台は洗い物で溢れている。こんなの見られたら… 「何飲みたい?コーラとジュースと…それともコーヒー淹れる?」 コップや皿を急いで洗いながら相原に尋ねる。 「先生は何飲むんですか?」「僕も喉乾いちゃったから、コーラかな」 「じゃああたしもコーラ」…ふう。とりあえずこんなもんか。ざっと目に付くものを洗うと、棚から綺麗なコ ップを二つ取りだす。冷蔵庫のペットボトルのコーラも持って相原の元へ。 「ありがとうございます」コップを置くと相原は僕の手からコーラを取り、コップに注いだ。 「じゃあかんぱ〜い」「…何に乾杯なんだ?相原」「もう…馬鹿」「…」 く〜〜照れる。たぶん顔が真っ赤になってるんじゃないだろうか?」 お互いに一口飲む。すぐに相原は「じゃあ絵見せてください」と云った。 「う〜ん。どうしてもか?」「はい!どうしても」「でもなぁ…」 「見せてくんなきゃ…このまま帰っちゃうから」「わ、わかった。見せるよ」「うふ…」 しょうがないなぁ…たぶんニヤけているであろうこの顔を見せないように立ち上がり隣の部屋へ向った。 「そっちにあるんですかぁ?」「あぁ、一応アトリエのつもりなんだけど、物置化しちゃって足の踏み場も 無いから…ちょっと待ってて」「は〜い」 う〜ん。とりあえず自信作を、…と、これかな。風景画…うん。これでいいか。 「じゃあ…初めてだぞ。生徒に見せるのは」「わ〜嬉しい〜。どんな絵ですかぁ?」 相原に向けてひっくり返す。そこには高原が描かれている。 「きれ〜い…これどこの絵ですか」「学生の時に信州から北陸を旅してね。その時見た風景を思い出して描 いたんだ」「え?じゃあ見ながら描いたんじゃないんですか?」 「うん…も、もういいだろう?」「え〜〜もっと見たいですよぉ」 「ほ、他のは見せられたもんじゃないんだ。描きかけばっかで…うぐ、うん、ふ〜〜」 飲みかけのコーラを一気飲みする。そして絵を隣に仕舞ってくる。 「う〜ん。じゃあ、あたしの事、描きたくないですか?」「ええ?」 「モデルになってもいいですよ」「そ、それは嬉しいけど…下手になったら相原に悪いし」 「平気ですよ」「人物は前から苦手なんだよ…それより実物の相原を…」 そう云いながら相原の肩に手を掛ける。 「ちょ、ちょっと待って先生!」「待てないよ…もう限界なんだ。相原」 「あたしも…だけど、トイレに行きたくて…ちょっとだけ、ね?」「あ、あぁ」 フフ…まるで子供みたいだな僕は。駄々こねて…ふ〜、なんか昨日から色々、たくさんの出来事が…ふあ〜 …衝撃的すぎ、て…つ、かれたのかな?…なんか、ね、眠い…なぁ…でも相原が…う〜ん………―――寝ち ゃう…かも… ガチャ…相原…トイレ、済んだか…「先生?」…ん?なんだ。お、起きてるぞ…「先生。寝ちゃったの?」 …いや…その… 『…もし――う君?…うん。寝…たよ。判った…』 誰と…話…―――――――zzzz


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