明日香編 _前編―ナガイヨル―(IF)



※読む前に――
 XC5周年記念小説です。
 あま――――い話に挑戦して見ました。が!
 設定は滅茶苦茶です(1R・2Rの設定がごちゃ混ぜなので)、『IF』であることをご了承ください。

 by aki烏賊



明日香 ――ナガイヨル――


「まったく……こんな時期に紛らわしいんだから!」

 目の前で――真っ赤な顔で、苦しそうに汗を掻いている幼馴染――病人を前にしても、素直になれない自分に――片桐明日香は――心の中でため息をつく。

 どうしてこう……もっと可愛く振舞って上げられないのか?
 幼馴染としての期間が長く、どこか姉弟のようにも感じてしまうから?
 ――でも、
 幼馴染という関係は、今も――これからも変わらない。
 しかし、今の2人――片桐明日香と相原拓也はもう一つ関係がある。

 ――そう、その……こっ…『こいびと』……なんだから……

 言葉に出さずとも、心の中で考えるだけでも、恥ずかしい。
 別に付き合いたてでもない。
 そういう関係になって、それなりの時間を2人で過ごした。
 もちろん……子供ではない。身体を重ねたのも――

 拓也の前で素直になれない自分がもどかしい。
 どうして、他のコ達のように可愛く甘えられないのだろう?

「時期は関係ないだろ……風邪引くのに……ああ、冷えピタが気持ちいい……」
 ……拗ねているようだ。
「だって、世間ではインフルエンザが流行ってるのよ? なのに、ただの風邪で大騒ぎして……大げさなのよ、拓也は」
 ……どうして、素直に「よかった、ただの風邪で。心配したんだから……」と言えないのだろう? 思わずため息が出る。
「冷たいよぉ〜明日香……」
 情けない声を上げる幼馴染に、
「何言ってるのよ。こうして看病してあげてるでしょ? こ〜んな可愛い……その、あの、………彼女が…さ?」
 ぼっ!と頬が熱くなる。ありったけの勇気を振り絞った言葉だ。
「……ありがとう……明日香」
 病気のせいか、やけに素直な拓也に――なんか……目を合わせられない。
「いいから! もう! ……ほら、寝なさいよ、今日は傍にいてあげるから」
 ――ホントは、拓也には悪いけど……嬉しいなぁ……
 風邪になった事が、ではない。
 こうして2人きりで過ごせる時間が――だ。

 男である『相原拓也』が女になった――
 冗談のようなホントの話――

 今でこそ男に戻っているが、色々あった。
 拓也が苦労していたのは知っている、明日香も出来る限り力になろうとしたが、性別変更など科学を超えた『魔法』みたいな出来事は、結局、先輩や後輩の力で何とか戻る事は出来たが、明日香は何もしてあげられなかったと感じている――まぁ、女になったのは、その先輩や後輩のせいなのだが……

 皮肉なことに、幼馴染という関係を超えて恋人へとなったのも、それがキッカケで――
 でも『女になった』彼氏が異常にモテるのもそれが原因で――

 確かに、女のコの『たくや』は可愛かった。
 不本意ながら、元々女である明日香ですら自分より可愛いと、どこかで思ってしまった気がする――間違いなく、胸は私より大きかったわね……
「あれ? 明日香、何か目が怖いよ?」
 でも、それも終わった、今の相原拓也は明日香の知る、幼馴染の男のコ。
 ――女のコでは、無い。
(なのに……何故か今でもモテてるのよね……)
 明日香が知る限りでも――
 同学年の金髪の留学生のケイト。
 同じく、演劇部部長の渡辺美由紀。
 2人とも宮乃森学園では知らない人がいないくらいの有名人―-そして美人だ。
 それが何故、拓也なんかを――?
 自分の彼氏にあんまりの評価だが、どう考えても拓也は、学園の有名人とつり合うタイプではない――筈。
 ――なのに、
 噂では下級生にも拓也を慕っている子がいるらしい。
 何の間違いか宮乃森学園以外の、大学生のお姉さんや、有名な女子高のコまで――
 今思えば、拓也の先輩であり、女のコになった原因でもある佐藤先輩も、拓也の事が好きだったのでは――?

 ――噂に聞く、人生で3回はあるモテ期ってやつですか? ふ〜ん――

「あの……明日香? 片桐さん? タオル……それ以上絞ると千切れそうなくらい、『ぎゅうううううっ』てなってますよ?」
 何かと拓也の周りに女のコが多くなり、後輩である工藤功二も常に拓也の傍にいて――
(2人きり……何て滅多になかったものね……)
 だからこそ――不謹慎だが――こうして拓也と2人だけの時間を過ごせることが嬉しい。

 ――正直、拓也が遠くに感じる事もあったんだよ?

 じぃ――と、小さい頃から知っている男のコを見詰める。
 確かに、かっこ悪くはない――良くもない、言うならば普通?
 今でも朝1人では起きられない――毎朝、起しにきてしまう自分のせい?
 頭は悪くない、むしろ良い――けど将来の事とか、まじめに考えていない、もう高3なのに……
 優しい――違う、優柔不断なの! 流されすぎるの!!
 頼りない――うん、頼りない。草食系。

 ――まったく、他の人達は拓也のどこがいいのだろう?

 ――ならば――自分は?

(私は……)
 拓也を見詰める明日香。

 どことなく、熱に喘ぐ拓也の表情を――肌を合わせた時の、あの顔に重ねて――
 その唇が色っぽくて――つい引き寄せられて――
「……明日香……風邪…移っちゃうよ……?」
 火照った瞳に――息が触れ合う程の距離で見詰められて――
「そうなったら、拓也の風邪…治るかな……」

 距離は――零になる。


 ―*―


「ああっ……明日香ちゃん来てたんだ」
「夏美さん、お邪魔してます」
 無遠慮に部屋へと入ってきた来訪者に明日香は頭を下げる。
 相原夏美――拓也の姉だが、血は繋がっていないだけに性格は正反対なほど違う。
 一言で言えば――肉食系。
「しかし、明日香ちゃん。綺麗になったね。ウチの馬鹿と付き合ってるのはもったいないよ? どう? もっと上手いやつ紹介しようか?」
「あはは……」なんと言うか……豪快な人だ。 明日香は夏美に曖昧に笑って返す。
 拓也は迷惑そうにしている――が、口に出す元気はない。
「なぁ、夏美。さっさと来いよ?」
 夏美の後ろで見知らぬ男の声。
「うるさいねぇ! 大事な弟が風邪で寝込んでるんだ。心配するのが家族ってもんだろう!? あんたは先に部屋に行っとけばいいんだよ!!」
 あ、心配してたんですか? 一応。……でもその男の人は?
「ったく……じゃあ、明日香ちゃん。そういう事で悪いね? まぁ、このヘタレも、あたしより明日香ちゃんの方が嬉しいだろうしさ」
 そういう事ってどういう……いえ、いいです、拓也もさっさと行けって顔してますし。
「じゃあね♪」と手を振る夏美の後ろ姿を見送る。
「相変わらず……ねぇ、夏美さん」
 感心したような、呆れたような――明日香が呟く。
「……弟が風邪だって言うのに……男を連れ込むかなぁ……あの馬鹿姉貴……」
 拓也は、夏美の姿がなくなってようやく口を開く。
「はぁ……せっかく今日は親も居なくて……明日香と2人きりになれるはずだったのに……」
 どうやら夏美さんが家に居るのは計算違いだったようだ、確かに最近は見なかった。
「楽しみにしてたのに……はぁ…しくしく…」
 がっかりした拓也の声――そういえば、遠足とか……イベント事があると、よく体調不良になっていた気がする。
(そのタイミングの悪さも……拓也らしいよ?)
 少なくとも――風邪は予定外としても――こうして2人きりになれる日を楽しみにしてくれていた訳で――
 微笑む明日香。
 残念だけど……嬉しいぞ――と♪

 ――無意識に、唇を指でなぞると、
 ――先ほどの余韻がまだ残っており。
 少なくとも、拓也の部屋では2人きりな訳で――

 明日香は布団の中に手を入れ、拓也の手を握った。
 熱のせい? いつもより――熱い。

 2人は見つめ合い……そして――

『んんぅ! あはぁ!! ほらっ! もっと……しっかり感じさせなよ!! はぁあああ!!』

 隣室から響いてくる男女の声に、揃って顔を赤らめるのだった――


 ―*―


 拓也は規則正しい呼吸音を立てている――なのに、
「出てけ……馬鹿姉貴……」
 寝言でも文句を言っているのが可笑しい。面と向かっては絶対言えないだろうに。
 いまだ聞こえる艶を含んだ夏美の声――
(病人が居るっていうのに……)
 とてもじゃないが、明日香にはこの状況では眠れない。なのに、拓也は直ぐに寝付いてしまった。
 結構無理をしていたのだろう。
「少しでも私と話をしていたかったの?――と思うのは私の自惚れ?」
 寝苦しそうな拓也の表情、額に浮かぶ汗を冷やしたタオルで拭う。

『あはぁ!! いいよ! うまいじゃないか……ああああっ!!!』

(さっきは、いい雰囲気だったなぁ……)
 あのまま、久しぶりに拓也と――と、浮かんだ考えを振り払うように頭を振る。
(何考えてるのよ! 明日香! 拓也は病人なんだから!!!)
(でも……拓也が女になったり……男に戻っても色々あったし……)
 その『色々』には素直になれなかった自分の所為も含まれるが――

「……明日香…」
 突然。自分の名前を呼ばれる――
「ひゃぁい!!」
 思わず声が裏返ってしまったが――寝言? 私の夢を見てる?
 拓也の横顔を見詰める。
 ――ごめんね? 素直な……可愛い彼女じゃなくて……

『んふぅ!! どうだい? こうされると気持ちいいんだろ? ほら? あははは♪』
「って! いい加減にして下さい!!!」と、大声を上げようとし、慌てて口を押さえる。

 拓也を起しちゃまずい、せっかく気持ちよさそうに寝ているのだから――

 ゆっくり、拓也を起さぬように明日香は部屋を出る。
 今日はずっと傍に居たいけど――この声をこのままにしておけない。
(私だって……我慢してるのに――もう!!)
 半ば八つ当たりな気もするが、病人が居るのに騒ぐなんて非常識だ。
 いくら夏美さんとは言え、文句の一つでも言わないと――
 火照った頭をぶんぶんと揺らし、夏美の部屋の扉の前に立つ。
「夏美……」
『あああっ!! いいっ!! んんっ! あはっ!! いいよぉおお!!』
 扉越しに――先ほどよりはっきりと大きな、身近な人間の――嬌声。
(やだ……)
 考えてみれば、今この部屋で夏美は男と――
「さ……ん……」尻窄む自分の声。

 筒抜けなのは当たり前だ、部屋の扉が微かに開いてる。
(もう……ちゃんと閉めてくださいよ……)
 文句の一つも言おうと思ったが、今、この部屋に入る勇気はない。
 強気――と思われてるが、この手の行為に関しては……その……拓也に任せてるし……
 って! 夏美さんやケイトがオープンすぎるの!!!
 心の中でツッコミを入れ、扉を閉めようと――
「くぅ!!! 夏美! すごいな!! 相変わらず……どうなってんだ? お前の膣内はっ!!」
 快楽を告げる男の声に、
 ――拓也はあんな声……出した事無い……

 つい――何故か吸い寄せられる様に――
 他人の……その…行為? を見る機会なんてないし――

 僅かに開いた隙間から中の様子を窺ってしまう。
(わわっ!!!!)

 部屋の中――ベッドの上で絡み合う2人。
 日に焼けた健康的な肢体の夏美は、男の上に乗り、腰を振っていた――身体の動きに合わせて弾む乳房の、片方に男の手を、もう片方は自らの指を食い込ませて――
「んはぁああ!! ああっ! ふふ! どう? 気持ちいいだろう? ふふふ♪」
 獲物を蹂躙する獣の瞳で、男を見詰める夏美の貌。
 性格がよく表れている、きつめの瞳を愉悦に細め、唇から漏れる濡れた声は、夏美自身、充分感じていること告げている。
 後ろでポニーテールに束ねた髪をぶんぶんと揺らして、夏美は――心底楽しそうに――男を跨ぎ、ぬちゅにちゅと音をたて、腰を上下に揺らしている。
「相変わらず……はぁ! あんた…ここだけは最高だねぇ♪ ああんっ!!!」
 ダンスのように――リズムを刻み、躍動する裸身は――男の上で跳ね、汗を纏って踊る。
「酷いな、オレに価値はここだけかよ?」
 夏美の、挑発的に張り出した乳房に指を埋めて、男はもう片方の手でお尻を掴むと、下から突き上げるよう腰を叩きつける。
「はひゃあんんっ!! ふふっ♪ いいねぇ!! あはぁ……もっと感じさせておくれよ? んはぁあああぁああ!!!」
「今日こそ……先にイかせてやるよ!! ぉおおおお!!」
 獣達の咆哮、熱気に包まれ、ぬらぬらと光沢を帯びた男女は互いの肢体を欲し、与え合う――


(激しい……)
 息をするのも忘れて見入ってしまっていた明日香の喉がごくり――
 目の前で知っている人間の生々しい痴態。

 男を貪り、男に貪られる女――

(やだ……!)
 熱に当てられたのか、明日香の身体もまた、汗を浮かび上がらせていた。
 肌に張り付く布地に自分が興奮している事を教えられる。
 見てはいけない――頭ではわかっている――のに、身体か動かない。
 ぺたん、と床に座り込み、隙間から見える饗宴に魅入る。
(あんなに……激しく……壊れちゃうよ…ぅ…)
 扉の向こう――激しく身体をぶつけ合い、喘ぐ男と女。
 明日香には、信じられないほどに、二人は快楽を求めて互いを貪る。
 無意識に――腕が下腹を押さえる。
 想像したこともない激しい男の動き、されているのが自分だったら――?
 ――耐えられるわけない……拓也はもっと……優しく動いてくれる…って、私! 何で拓也と比べてるのよ!!
 ばしっ! っと濡れた肉体がぶつかり合い、連続で聞こえてくる打撃のような音。
 ――なのに、
「はうぅううん!!! はぁ!! ああっ!! いいぃ!! はぁああはぁ!!」
 先程とは違う、余裕のない夏美の声。
 そこに篭もるのは――あからさまな快楽の音。
 
 夏美は身体を逸らし、下腹部を男に密着するよう突き出す。
 後ろに倒れないよう両の手で必死にシーツを掴む表情に余裕はない。いつしか――互いに腰を振り合っていたはずが――夏美は一方的に下から突き上げられて悶えていた。
「はぁ! あああっ!! はぅんんんっ!! あっ! はぁ! はぁ! はぁあああ!!」
 いつもからは想像できない、蕩けた表情に甘い嬌声。
 ただ男の突き上げに身体を揺さぶられ、震える両手は今にも崩れそうだ。
「ほぉら………よっ!!!」
 一拍の間を置いて――
「はぁあああああああああああああ!!!! ぁぁぁぁ……」
 夏美の身体が跳ね上がる。
(何!?)その大声に震える明日香の身体――
「はぅううう……、な……何て事するん……だ…い? 子宮に……ちんぽが入ったかと思ったよ……はぁあああ……」
(子宮って……そんな…奥まで!?)
 今、明日香がお腹の上から押さえている場所――
 大切な人の精を受けて――生命の生まれる場所。
(だって……赤ちゃんの……お部屋なのに……)

 ――なんでそんなに気持ちよさそうにしているの?

 背中を逸らし、足を大きく広げた夏美は、隠すものなく、はっきりと明日香に――まるで見せつける様――晒す。
 夏美の秘唇も、
 それを押し開く――明日香が見た事がないほど大きな――男性器も、
 結合部を濡らす白く濁った液体も、
 そして、満足気な微笑みを浮かべる夏美の貌も――


 ―*―


「はぁ〜〜〜あぁ……ふぅ……」

 拓也の部屋に戻り、慌てて深呼吸する明日香。
 覗いている間は満足に息をしていなかったので、ゆっくり――自分を落ち着かせるように――呼吸を繰り返す。

 どくどくと――ワンピースを押し上げる胸の鼓動は早いままで、
 じんじんと――濡れて冷たくなったショーツの奥で疼く秘唇。

 ――拓也………

 おぼつかない足取りでベッドまでたどり着き、枕元に顔を埋める。
 すぐ近くには――
 穏やかな寝息を立てる――愛しい――拓也。
(駄目よ……拓也は熱があるんだから……)
 タオルでそっと……額の汗を拭ってあげる。
 伝わる体温の熱さ、熱はまだ――下がっていない。

 ――あつい。

 部屋中に篭もる拓也の匂いを――汗を掻いているからだろうか――? いつもより濃厚に感じて、
(あ………)
 ――たくやの匂いを意識して、火照るのは――心。
 目の前であんなものを見せられて、身体はとっくに――

 ――発情している。

 布団越しに、拓也の胸に顔を埋める。

 本当ならば、今頃は自分も拓也と――


『ほらぁああ!! 今度……はっ! はぁっ! あたしがイかせてあげるよ!!』
『待てって!! 少し休ませろってぇええええ!!』

 ――いい加減にしてよ!!

 明日香は心の底からため息をついた――

 ―*―

「ちゃ…ん」

 誰かが自分の名前を読んでる――

「明日香ちゃん?」
「………はぃ!!」

 いつの間にか眠ってしまっていた。
 肩口を夏美に叩かれ目が覚める。
「この馬鹿の為に嬉しいけどさ、こんな所で寝てたら風邪ひいちまうよ?」
 夏美に似合わぬ優しい言葉――
「ん〜〜、まだ熱はあるけど……大丈夫そうだね。明日には治ってるんじゃないか?」
 夏美は拓也の額に手を当て、ほんのわずかに――優し気に微笑む。
(やっぱ……なんだかんだ言って…心配していたんだ……)
 ――って、
「夏美さん? なんですか? その格好……」
 夜の、こんな時間だと言うのに着飾った夏美の格好。
 先ほどまでのタンクトップに短パンと言う部屋着では無い。
「あ〜〜、これからちょっと……ね。医者やら、2世やらとのぱーてぃー♪ 明日香ちゃんも来る?」
「行きません!!」
 ――見直して損した――って、今から? さっきまで……

 扉越しの痴態を思い出し、思わず頬に血が昇る――
「あはは♪ だろうね、こんな馬鹿のどこがいいのか――じゃ、ちょっと留守番頼むよ?」
 暗くてよかった、気付かれてないみたい――

 ひらひらと手を振って扉に向かう夏美。
 破天荒な性格にはもう慣れた――と。溜息をつきながらその後ろ姿を見送る。

 ――でも、これで拓也と2人きり。
 どこか期待して胸が高鳴る。
「あ……その馬鹿はもう大丈夫そうだけど、どうせ今日は帰らないんだろ?
 だったら、あたしのベッドで寝な? こんな所じゃあんたが風邪ひくよ?」

 ――ベッドって……さっきまで…その……

「朝起きて拓也に朝食でも作ってあげな――あいつ、そう言うの好きそうだし――
 たまには明日香ちゃんも大胆に裸エプロンとかして見れば?」

 ――しません!!!

「あ……明日の夜まで帰らないからさ――ごゆっくり〜♪」
「いってらっしゃい!!!」
 去り際の夏美の言葉。

 ――夏美なりの気遣い――なのだろうが。
(あ……起きちゃったかな?)
 つい、拓也の横で大声をだしてしまったが――すやすやと寝息が聞こえる。
 確かに夏美の言うとおり、さっきまでと比べて穏やかな息使いに――


 ――明日はよくなるよね? 

 拓也の頬に唇を寄せて――

 自分の大胆な行動に驚きながら、ふと顔を上げると、時間は23時をまわっている。明日はきっとお腹をすかせて起きるに違いない。

 朝食を作ってあげるのも……なんか奥さんみたいで悪くない――


 ―*―


 扉を開けると、夏美らしく、必要最小限の物しか置いていないさっぱりとした部屋にお邪魔する。

 明日香は夏美のベッドに身体を横たえた。
 眠たかったのは――ある、いろいろ考え過ぎて疲れた――

 部屋中に広がる甘い香水の香り――おそらく、夏美が出かける前につけたのだろう――でも、

 男と女の――匂い。

 わずかに残っている――もしかしたら、明日香の気のせいなのかもしれない――が、

 何気なくシーツを触る。
 人の温もりも、汗の湿り気も残っていない。
 ただは明日香は知っている、さっきまでここで何が起こっていたか――

(夏美さん……さっきまでここで――)

 ――何故? そうしてしまったのかわからない。

 夏美にしては少女趣味? なピンクのタオルケットの中で身体を丸め、そっとショーツの中に指を滑らせる。
 ――あつい。

 秘唇をなぞる指先に感じるのは、濡れた感触と――熱。
「あっ……ふっ……」
 ぴくん――と身体を震わせ、意識せずに吐息が漏れた。
 拓也の部屋までは聞こえないと思うけど――全身をベッドに潜らせ――自らの指を咥える。
(んんっ………)
 秘所の形を確かめるよう指を動かすと、くちゅ…、と音が鳴る。
 指先に湿り気を感じて、明日香は恐る恐るその中へと指を進める。
 わずかに口を開いたソコは、まるで吸いつくよう容易く指を飲む込む。
(やだ……こんなに濡れてる……)
 入り口付近の浅い部分に指を2本沈ませて、感触を確認するよう動かす。
(熱い……吸いついてくる――)
 熱く、濡れた感触が明日香の指に絡み付く。
 指を動かすと敏感な粘膜を擦り、甘い疼きが沸き上がる。
 自らの膣内の感触を楽しみ、生まれる刺激に身を任せて、どんどんと激しくなる指の動き。
 指先を包み込む暖かさ、奥から湧き上がる蜜は入り口まで溢れ、くちゅくちゅと音を立てて絡み付く。
「んん……ふ…ぅ……んッ! はぁ……」
 タオルケットで造られたドーム内に籠る、自分の濡れた息づかい。
 唇に押し付けた指を必死に咥え、声を出さないよう堪えるが――
「あん! ……んむぅ!!」
 既に第2関節まで奥に進ませた指に感じる、うねうねとした感触。
「んんっ……拓也ぁ……」
 ――愛しい人の名を呼ぶ。
 指の腹に感じる、だんだんとした感触にも何度も指を這わせて火照りを高める。
「……!! っ! ……んんふぅ!」
 膣内に沈ませた2本の指を交互にかぎ状に曲げて動かすと、断続的に快感が背中を伝う。
(やだ……音!!)
 ドームの中にちゅくくちゅと響く――明日香の指の動きに合わせて――蜜だまりを掻き混ぜる音は止まない。
 沸き上がってくる快感を受け入れ、わななく唇に指を咥えて唾液を絡ませる。
 まるで、自分の指ではないよう――拓也のはこんなに小さくないけれど――に、口の中のモノに舌を這わせ、舐めしゃぶる。
 唾液の撹拌される音が、頭の中に響く。

 ――いやらしい音……

 口内と秘肉を、自らの指で掻き混ぜる――欲に溺れた自分の姿を想像し、身体が震える。
 直接的な快感ではない――心で感じる――甘美な震え。
(拓也……拓也ぁ……)
 膣の入り口から中ほどまで指を進めた辺りで、お腹側に向けて強く押す。
「ひゃうつつ!!!」
 腰が跳ね上がる――強烈な性感に。
 理性が許容できない快感。
 指は跳ねる身体に構わず、何度もそのポイントを刺激する。
(んんっ!!! ひぃいいいいいんんっ!!!)
 手首まで伝う自分の淫液。
(ダメぇ!!! こんなっ!! 拓也……たくやぁあああ!!!)
 甘い感覚に、溶けた頭の中で何度も拓也の名を呼ぶ。
「……っ……はぁ……ずずぅ…あふぅ…はぁ…ちゅ……ぷっ」
 自らの指をしゃぶる舌の動きは激しくなり、くぐもった音を漏らす。
 もはや自分の意思では制御できず、絶頂を求めて膣内を刺激し続け、明日香はただ快楽を受け入れ、喘ぐ。
 こみ上げてくる『気持ち良さ』が鼻の頭まで疼かせ、快楽は水かさを上げていく。
「はぅ! はっ! はっ! ああぅ!! んんっ! はっ! あぁ!!」
 がむしゃらに、ただ指を動かすだけで、どんどんと身体が高まっていく。
 明日香という容器は、『快楽』を許容できる限界まで満たされつつある。

 汗に濡れ、悶える身体から発する『女』の匂い――
 指と舌が絡み、唇から漏れる湿った吐息―
 そして、自らの指に嬲られる膣内から湧き上がる快感――

 目の前が真っ白になっていく。
 自分の身体が浮き上がるような錯覚を感じ――

(明日香――)

 瞬間、思い浮かぶのは――

 いつも変らぬ笑顔

 ようやく結ばれた、昔から知っている男のコ――

「たくやぁ………」

 愛しい名前をぽつり。

 いつの間にか――溢れた涙が頬を濡らしている。

「拓也ぁ――」
 明日香は、もう一度噛みしめるようにその名を呟く。

 幼いころから、何度も何度も――おそらく、自分の名前よりもはるかに――口に馴染んだ名前を――


※後編へ《分岐》

明日香編 _後編―ヨアケ―(IF)へ

明日香編 _後編―アケナイヨル―(IF)へ