第25話


 絵美のつややかな肌の上を、まるで壊れやすい人形をいとおしむように、ザラついた指に似合わぬ繊細な刺激が絶え間なく続いていた。
 やる気あるのか?と、瞳の痴態を見て欲望をふくらませていたギャラリーの声が聞こえてきそうだ。
 だが、オジサンはそれ以上は必要ないという確信を持っているといわんばかりに、絵美の肌をツーッとやさしくなぞりながら次第に下腹へ向かっていった。
 
 (ん・・・んん・・・)
 絵美はしかし、周りから見るよりもずっと追いつめられていた。
 肌の上を指が這うだけで、ゾーッという感覚が身体を柔らかく包み込み、それが彼女の理性を奪っていくようだった。
 (こんなに・・・感じる・・・)
 信じられないことだった、おへその周りを撫でられるぐらいでポォッと身体が火照っていく。
 「ッ・・・ン!」
 肋骨や脇腹の感じやすいところを触られると思わず腰が浮きそうになり、ごまかすのに苦労した。
 なによりも絵美を追いつめていたのは、次第に刺激が強くなってきている・・・いや、自分が感じやすくなっていっている、という否定できない事実だった。
 (まだガマンできる・・・でも・・・このままこれがずっと続いたら?それに、もしも・・・もっと感じやすいところを・・・)
 
 予想できない快楽を耐えきる事ができるだろうか。
 声は出したくない。この男たちの前で、淫らで恥ずかしい姿を見せるのは耐えられなかった。
 だがそれはもはや「もしも」ではない現実として、絵美の前に立ちふさがろうとしていた。

 「ン・・・」
 オジサンの指が浮き出た骨盤に沿って移動すると、体中を小さな虫に這い回られたようなゾワッという感覚が絵美に警報を与えた。
 指先が次に向かっているのは一番感じやすい場所だ。
 絵美は残っている力を全て使わんとするように、腰のあたりに力を入れた。
 ジョリ・・・陰毛がなでつけられる感覚でさえ、今の絵美には刺激的だった。
 「フフ」
 オジサンはその茂みの存在を無視するように股間へと指を走らせ、そのまま内もものあたりを優しく撫でた。
 (・・・んんん・・・)
 再び、至近距離から股間をのぞき込まれる恥辱に絵美は顔を赤く染めて唇をかんだ。
 オジサンはそんな絵美を見てニヤリと笑うと、縦に走る割れ目の一番上のあたりをチョンと指の腹で弾くようにしてみせた。
 「(・・・!)ンッ!・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・」
 効果はてきめんだった。かろうじて声を上げずにすましたものの、絵美の顔には驚愕と絶望が色濃く浮かんだ。
 (・・・何・・・よぉ・・・今の・・・)
 太一がしてくれるどんな愛撫よりも強烈な一撃が、彼女の理性の防壁に大きなひびを入れた。
 「フム」
 オジサンはそんな絵美の反応を見て、満足そうに股間から手を離した。
 「・・・ふぅ・・・」
 桶に向かうオジサンを横目に絵美は大きな息を一つはいた。
 (助かった・・・)
 もしもあのまま続けられていたら耐えられない、と自分でもよく分かっていた。
 (・・・熱い)
 股間から内ももまでがジワリと熱を持っていた。真っ白なふとももの内側が桃色に染まっている。
 (どうしよ、私・・・)
 目を閉じて心を落ち着かせようとしても、時間とともに身体の火照りがさらに加速していくようだった。
 「はぁぁ・・・・・・」
 荒い呼吸が、手で覆い隠した柔らかい乳房を大きく上下させる。
 (こんなはずないのに・・・)
 手のひらに感じる小さな肉の蕾が堅さを増していくのを絵美は忌々しく感じていた。

 「アッアッアッアッアッアッアアアッ!」
 瞳のリズミカルな喘ぎ声が耳に響く。
 こうして待たされている時間が、逆に絵美の五感を快楽に向けて研ぎ澄ましていくようでさえあった。
 自分の身体を這い回る男たちの欲望に満ちた視線。淫らにあえぐ友達の姿。いつ来るか、何をされるか分からない愛撫への不安と・・・認めたくない期待。肌の上でローションが乾いていく感覚、あるいは汗が線を書いて流れていく感覚・・・。
 目を閉じていると、そうした全てが絵美の奥底に隠し続けている何かをかき回して、波立たせていく。
 (どんどん感じやすくなってる・・・)
 自分が次第に追いつめられている、という受け入れたくない事実を認めるしかなかった。
 さっき軽く撫でられただけなのに、皮膚の下に隠されている絵美の股間の肉芽は、外に出たいと疼きつづけている。
 (こっちも・・・?)
 試みに、手のひらの下で乳首をさするように手を少しだけ動かしてみる。
 「ぁっ!・・・はぁぁ・・・・・・はぁぁ・・・」
 途端に身体を突き抜けるような快感が身体を走り抜け、思わず声が出そうになる。
 (あ・・・ぶない・・・)
 呼吸のように見せかけてごまかしたつもりだが、松山たちがどう思ったか、視線を動かして確かめる勇気はなかった。
 (だめ・・・もう動けない・・・)
 身体の力が入らないからだけではない、体中のそこかしこがあまりに敏感になりすぎている。
 仮に立ち上がる事が出来たとしても、風が身体をなでつけただけでその場に座り込んでしまうのではないかと思った。
 
 「○×〜♪」
 オジサンが戻ってくる。絵美はどうしようか迷いながら、結局目を開いた。
 (眩しい・・・)
 途端に照明の明かりが視界を奪う。
 「・・・あ・・・ぁン・・・・・・ん・・・」
 視界が回復するより早くオジサンの指先が絵美の脇腹をツーッとなぞった。
 (あ・・・だめ・・・)
 先ほどまでと変わったところはないのに、快感だけがどんどんと強くなっている。
 「フフン・・・」
 オジサンはかまわずに絵美の裸体をさらに探索する。
 「う・・・・・・」
 それでも絵美はまだ脚を閉じ、口を硬く結んだまま責めに耐えていた。
 その姿はまるで、押し寄せる野獣のような敵兵の存在に怯えながらも、必死に自分を保とうとする落城寸前の姫君のようだった。
 ひとたびドアが開けば、そこからなだれ込んでくる淫らな獣たちはあっというまに彼女の絹のドレスを引き裂き、この清楚な娘に陵辱の限りを尽くすことだろう。
 「う・・・ん・・・・」
 絵美を守る理性の衛兵たちは必死でドアを開けまいとしていた。
 オジサンの責めはそんな絵美の抵抗を楽しむように、絶え間なくドアを叩き続けた。
 ほどよくくびれた脇腹をくすぐり、骨盤の線をなぞり、ヘアーの生え際を、まるで毛並みを整えて見せるかのように何度も往復する。
 「ん・・・!」
 絵美はその都度、恥じらいと恐ろしさ、そして一方で身体を震えさせる快楽の微風に心をかき乱されていた。
 
 「アッ!アアアッ!アッもうっ・・・アアアアッ!!!」
 そのとき、すこし落ち着きつつあった瞳が、ひときわ大きな声を上げた。
 (・・・え・・・?)
 絵美は思わず瞳の方を見た。だらしなく広げられた股間を撫でつけている男の手の動きが早い。
 
 「アアアアッ!アアッ!もうダメっ・・・もうっ!・・・ダッ・・・アッ!」
 暴れていた瞳の裸の身体が台の中心で硬直するようになり、口から漏れる言葉も絶え絶えになってきている。
 (瞳ちゃん・・・)
 限界だと分かった。絵美は絶望的な想いでその姿を眺めるしかなかった。
 
 「アッ・・・イッ・・・ちゃ・・・アアアッ・・・だ・・・め・・・・」
 瞳の裸の背中は軽く浮き上がり、歪んだかわいい顔の中で視線が空をさまよっていた。
 「アアアアッ!・・・イッ・・・ちゃう・・・イッ・・・!」
 大きく開いた口が言葉を失い、驚いたように目が大きく見開かれた。そして・・・。
 「クゥゥゥゥ・・・・・・・・・アアッ!アッ!アアアアァッ!」
 裸の身体がなにかから解き放たれたようにピーンと反り上がり、再び台の上に戻るとそこでもう一度ピクッと動いた。出来の悪いロボットのように動く裸体の上で、大きな乳房だけがプルップルッと揺れて瞳の肌の柔らかさを誇示しようとしているようだった。
 「・・・ア・・・ァ・・・・・・はぁぁぁぁぁ・・・・・・」
 エクスタシーの名残を惜しむようにせつなげな吐息が長く続いた。
 絶頂に達したというべきなのか、それとも奈落に堕ちたというべきなのか、向こうを向いたままで時折ピクリピクリと動く瞳の裸体を見る絵美にはわからなかった。


第26話へ