第六話(最終話)


 あっ……
 何度目かの悪寒。肉の薄い脇腹を撫で上げ、肋骨に振動を響かせていたボールが両脇を這い登ってきた。
 やば……
 狙いは言うまでも無く

「お、二つ動いたぞ」
「胸か?胸行くかっ?」

 無意識に逃れようと身体を引く、しかし手足を縛られている以前に服の下に潜り込まれては無意味だ。
「うぅっ」
 ついにボールは左右の乳房それぞれの下端に辿り着く。フィット感に富んだ布地をもってしても身体のラインをなぞりきれず僅かに開いた隙間をしばし散策し、服に押し込められた胸肉との間に溜まった汗が硬めのスポンジに吸い取られていく感触。

 下端をなぞり終えると、ついにボールは双丘への登頂ルートを定めた。それそれが外側にから円を描くように頂を目指す。その過程で一層強く押し当てられながら振動で柔肉を蹂躙する。

「あ、あぁ……」

 振動が乳房を揺する。今までとは違い、揺れは柔肉へ容易く伝わり胸全体を震わせる。

「胸……」
「ああ、今ボールが触ってるな」

 胸全体に伝わる振動が下側の裾野を越え、大胆に露出した上側にも響いてくる。剥き出しの乳肌までぷるぷると揺れるような錯覚に胸肉が火照り、汗が谷間へと伝い落ちる。

「くぅっ……んっ……」

 強弱を付けながら蛇行し、レオタードに隠された乳房の下半分を這い登るボール。その蹂躙に思わず漏れそうになる声を押さえ込む。

「……っ!」

 登攀するボールはついに頂に手を掛けた。が、一気に頂上を制することなく山頂手前で最後のルートを慎重に選定するかのように乳輪の縁をなぞる。

「止まった?」
「ここが、その……乳首?」
「いやまだだ」

 身体を起し、胸の上の更にもう一つの膨らみを凝視した。切れ込んだ胸元近くが下から持ち上げられ、胸の先端が上から覗けそうだ。その隙間から湯気が立ち上らんばかりに服の下には熱と汗がこもっている。
 ステージ下からは死角になっているとはいえ、胸が見えかけている事態に身体が熱くなる。羞恥に染まった顔で見つめるその先の暗がりの中で、ボールが動くのが見える、その次の瞬間――

「っああぁっ!!」

 転がるボールはついに双丘を登りきった。登頂の歓喜に痺れるほど強く激しくその身を打ち震わせる。

「くはっ……あっ、あっ……あぁっ!」

 柔肉の丘をふもとから踏み荒らされる刺激に硬くそそり立ってしまった乳首の周りを転がり周回するボール。山頂を制した勝利の咆哮が胸肉を芯まで震わせ、それに応える様に私は身体を仰け反らせてしまう。

「だっ……めぇ……胸だめぇ……」

 平時であれば痛いとすら感じる刺激が身体に広がり、理性を痺れさせて、感じた事そのままの台詞を送り出す。、強烈な刺激に浮かんだ涙が眼鏡のレンズ越しに天井から照り付けるライトを滲ませた。


「ひぅっ!」
 更に胸への蹂躙は続く。胸の頂に登りつめただけでは飽き足らず、その身を鎮座させ、完全に双丘を制圧するつもりだ。
 ボールの表面が割れ、汗を吸い込こみ肌のぬくもりで温まったスポンジの裂け目に乳首が飲み込まれてゆく。硬くしこった突起がスポンジを割り開き、震えるコアの部分に触れるとスポンジ越しとはまた違う鮮烈な刺激が迸る。

「ふあぁっ……ああ……」

 胸の膨らみの頂点、レオタードのその位置を更に押し上げて布の下からくぐもった羽音を響かせる双丘の征服者。彼らが頂から下す声に従属した柔肉が震え、汗ばみ、そして私に愉悦を一方的に押し付ける。
 身体を仰け反らせる事で胸を突き出し、くねらせる事で揺らし、バニースーツ越しとは言えステージの上で胸を、胸から生まれた快楽を感じている様を意思に反して見せ付けるように示してしまう。

「はぁ……胸ぇ……くぅっ……んんっ」

 "胸、気持ちいい"漏れ出そうとした紛れも無い本心を理性を振り絞りなんとか押さえ込む。衆人環視の中快楽に屈し、道具風情に、更なる愛撫をねだるなど……それを行い掛けた自分自身への屈辱が更に身体に火を灯す。

「くあぁ……」

 胸のみならず、身体の各所に加えられる機械仕掛けのバイブレーションに口を噤むのが精一杯の私には、体がはしたなく揺れ動く事まで止める術は無い。むしろ身体に溜まった疼きを身をくねらす事でどうにか発散しないと耐えられない。たとえそれが観衆にどのような劣情を喚起させようとも。

 体内を荒れ狂う波に煽られ、うねるに任せた身体はだらしなく脚を開き、仰け反る顎から揺れる胸、くねる腹から下腹部、振られる尻にいたるまでを全てその間から覗かせていた。艶やかな布地に覆われたなだらかな起伏、それを乱すように盛り上がる瘤。腹を擦るようにゆっくりと周回していたその中の一つがステージの手前方向へ這い降りてくるのが力なく開かれたV字の隙間から観衆にも見て取れた。
 
 胸の時と同様、布の下の柔肌に振動で足跡を刻みながら目標地点をを目指して転がるボール。それは悠々と歩を進め、臍を過ぎて下腹へ、レオタードの更に下に穿いたストッキングの境目に辿り着く。手足を縛られた私にそれの歩みを止めることはできない、だから、せめて力を込め……

「ひあぁっ!」

 ノック代わりに振動を強め、痺れるような一撃で私の力が抜けた一瞬を突き、難なくストッキングへと潜り込む。ストッキングの下で更に強く押し当てられたボールが下腹部を震わせる。

「あ……あぁ……」

 ズン、と身体の裡に響くそれが下半身を痺れさせ、脚を閉じ合わせるだけの力を奪う。威風堂々と覇道を歩む制圧者を前に、もはや最後の一枚――アンダーショーツを守り抜くことはできない。諦念の中それはショーツの上端に触れる。レオタードからはみ出さない様、それ以上に鋭いハイレグが辛うじて秘所を隠し、ラインが浮き出さないよう残りはほぼ紐でできた下着。こんな格好でもなければ身に付ける事など無いそれが私を守る最後の一枚。
 進入を許した後を考える、ごく僅かな面積を転がり踏み荒らすボール。その刺激は私を、あぁ……無意識の期待が身体を振るわせた。

「えっあっ……やだ、そんな一気にっ……ふあぁっ!」

 突入を前に身体の各所のボールも動きを活発にする、背筋を、胸を、脇腹を、内腿を、各所が同時に、順番に、強く、弱く、振動しそれが共鳴して私を揺り動かす。それに耐え切れず……

「……あ」

 じゅくり。バニースーツの奥に隠されたアンダーショーツのさらに下で粘つく音。身体の奥にまで伝わる振動でじわじわと湧き出してきていた秘蜜がついに体外へ染み出したのだ。

 ……や、だ。濡れてきてる……涙が滲む眼を凝らし客席を伺う。これは汗だ、通気性の悪い衣装を纏ってライトに照らされ、恥ずかしい思いに身体が火照ってしまってかいた汗。そう自分に言い聞かせ、濡れた秘部を悟られないように祈る。


「ふぅ……はぁっ……」

 身体を苛む振動がいっせいに弱まり、その間に一息付いて呼吸を整える。全身の球はその場に留まり微弱に振動するのみだ。私は安堵し、手足が動く事を確かめるとぎゅっと強く脚を閉じ合わせ、濡れた秘部を隠そうとする。

「はぁっ……はぁっ……」

 乱れた切った息はそう簡単に収まってはくれない。全てがほぼ静止した状態。いや、ただ一つ動いているボール、下腹部に潜り込んだ最後の一つが動き始めた。今まで激しく息づき、その後のゆったりとした深呼吸に慣れた腹部は弛緩したままその上にボールを滑らせ――

 にちゃぁ

 ショーツへの進入を許した。

「あっ……」

 身体を強張らせ、球が転がり込んでくるのに備える。ボールは阻む物が無いままに堂々とショーツのゴムを潜り抜け、淫蜜で肌に貼り付いたショーツを引き離しながら、まるで新たな支配者を出迎える絨毯のように敷き詰められた柔毛の上を進む。

「あ、あぁ……」

 思いのほか静かな登城。侵入者は陰裂に沿ってショーツの中を転がり降りていく。今加えられてる刺激は微々たる物でも、いつそれが急激に変化するかわからない、その変化に備えて私は息を呑む。
 やがてボールはスポンジにたっぷりと淫蜜を吸い込ませながら秘裂を通り過ぎ、底の部分、会陰部へと辿り着いた。そこを通過した安堵と新たな不安。鼓動のように微妙に変化する振動と相まって、過度の緊張を強いられる。そして……

「ああぁんっ」

 身体の言わば底の部分を突き上げられ、身体に溜め込まれていた熱が会陰部から真っ直ぐに吹き上がり、甘い声と化してこぼれた。不意打ちなんかじゃない、立ちはだかるものも無く踏破したこのアンダーショーツの中を制圧したという高らかな宣言。それを行った後は新たな領土を思う様支配するだけだ。モーター音を響かせながらボールは先ほどまでのルートを遡り、秘裂を下からなぞり上げる。

「ああっ……ああぁっ……」

 軽くなぞるだけの往路とは違い、遠慮なくその体を食い込ませながら転がるボール。愛液をたっぷりと吸ったその表面がしっとりと馴染み、全身への責めで綻びかけた花弁を心地よく震わせる……震わされてしまう。

「あああああぁ……」

 振動に合わせた上擦った声。身体の震えをそのまま増幅して私の口から響かせられる。私の衣装の下で何が起こっているのかを言葉以上に饒舌に観衆に訴える、否、させられる。
 その姿はいかなる口実も許さない。紛れも無く、私は、股間に、バイブレーターを当てられて、気持ちのいい声を上げている。あまつさえその浅ましい姿を人前に晒している。突き付けられたこの事実が私の身も心も羞恥で焼き焦がす。

「んはぁっ!」

 くねっていた腰と共に声も跳ね上がる。背筋を撫でていた球が、背から腰裏、そして尻へと降りてきたのだ。瘤のように背中を盛り上げていた球がショーツの上端から潜り込むと尻たぶの間に潜り込み姿を消す。背後からの羽音が尻肉に挟まれてくぐもった音へと変わり、外へ漏れない分尾?骨から伝わる振動が腰の内側全体に響き渡っている。少しでもその刺激から逃れようと腰を浮かすと、図らずも誘うような姿になってしまう。

「ああぁ……はぁっ……はぁあっ……あぁっ……」

 身体中に響く羽音に頭までも痺れさせられ、朦朧とする思考。既に脱力した上体は身を起す事もままならず力なく仰け反り、涙で滲んだ天井のライトを浴びるに任せている。
 バニー姿から少なからず露出した肌は汗ばんで火照り、赤く色づいてステージの照明に濡れ光っている。
 そして身にまとったコスチュームは元々乏しい吸湿性の限界まで汗を吸い込み、べったりと身体に貼り付いて普段は隠された身体の微妙な陰影までをも曝け出していた。特に開かれた脚の付け根は身体中を服の下から責め立てられて搾り出された淫蜜が染み渡りぐっしょりと濡れている。


 ある意味裸以上の恥ずかしい姿を晒す。だが、それに対して壇上に投げかけられる揶揄も、同情も、劣情も、私には届かない。身体中に響く羽音と、脈打つ心音と血流、そして私自身の口からとめどなく流れ出る嬌声がそれらを押し流し、無意味な音の塊に塗り潰してしまう。だから司会の声も――

 何かを喋った……?視界の隅で奇術師が何事か観客に語りかけるのが見える。目を瞬かせるとぼんやりと滲んだ視界が少しだけクリアになる。

 無意味な音の洪水の中で奇術師は布を翻し、筒の様に丸めた布を振ると花束に……この期に及んでそんなありきたりのマジックを……そんな感想を行う思考も内外からの轟音に掻き消されそうになる。だけど、なぜかありふれた奇術から目が放せない。ぼやけた視界の中で奇術師は布を取り去り花束を一振り。花びらが飛び散りその後に残ったのは……

 何度目かの瞬きで眼鏡越しにはっきりと像を結んだそれを見つめる。
 花束から現れ出たのはバイブレーター。男根を模った樹脂製の淫具。
 奇術師がそれを掲げて口上を述べると客席からは一際高い音の波が押し寄せる。その波を漂うような足取りで奇術師はこちらに向き直り近付いて来る。

「や、あ……」
 
 中から突き動かされるままに意味を成さない音を羅列する事に慣れ切った私は拒絶の言葉すら満足に口にできない。首を左右に振り拒否をの意を示す私に何時も通り微笑みかける奇術師。
 パチンと指を鳴らすと秘裂を苛んでいたスポンジボールが振動を弱めそろりと場所を譲る。力なく揺れる膝を難なく割り開くと、アンダーショーツ、ストッキング、そしてレオタードの三層を通過して染み出た淫汁に滑る箇所にそれ――バイブレーターを押し当てた。

 ぐりぐりと押し当てられる樹脂製の亀頭。だがスイッチの入らないそれは先程までの刺激と比べ、あまりに単調で物足りなくすらある。やや落ち着きを取り戻した中でその単調な摩擦が繰り返されるうちに感触が変化した。

「あ……え、何……?」

 「気付きましたか」とばかりに無言で微笑みかける奇術師。ただ擦られるだけじゃない、衣装越しとは思えない生々しい感触。そう、これは……。
 気付かれるのとほぼ同時に今まで漫然と擦り付けていたバイブレーターを突き立てるように押し当てると、まるでレオタードなど存在しないかのように秘裂を押し広げて入ってくる。
 物質透過の魔術で服の下に硬質スポンジのボールを押し込んだのと同様に今度はバイブを挿入しようというのだ。掠れた声と縛られた手足による弱々しい抵抗は再び動き出した各所の責めによりあっけなく無に帰す。

 そして奇術師が股布を引っ張ると、奥まで挿入されてもまだ余る樹脂製の男根の持ち手部分が覆い隠され、完全に衣装の下にバイブレーターが納まった。

「か、はっ……」

 股布の伸縮性により奥まで押し込まれたバイブレータに身体を押し拡げられるような感覚が私の息を詰まらせる。その状態で更に全身のボールが震え、それが体内を反響し、動いてない男根まで震わす様に響き渡り、実際の挿入感以上にそれを意識させる。
 息も絶え絶えの中、レンズ越しの滲む視界の中で、奇術師が手を差し上げ、何度目かの指を鳴らした。その瞬間。

「かはっ……うあっうああぁ……ああああああぁ」 

 突き立てられたバイブレーターが起動した。身体の表層を振るわせるボールよりも更に深く、何より敏感な場所が震わされる。股間から突き出た持ち手の形に盛り上がったレオタードの膨らみが目に見えて震え、私の膣内での出来事を外部に中継する。

「あぁっ……すごいっこれっ……奥っ奥までぇ……」

 今の今までの表層的な刺激に焦らされ続けていた身体が歓喜する。努めて意識から追い出そうとしていた欲求が朦朧とした意識を侵食し、過去最大のボリュームの羽音が身体の奥底から鳴り響き、理性を突き崩して自らが感じる快楽を包み隠さず打ち明けさせる。


「あぁんっ……中ぁっ中に入って……ふぁっ……ああぁっん」

 奥深くの理性を突き崩さんばかりに突き立てられたバイブが振動し、砕けた理性の欠片が上擦った声に混じって体外に排出されていく。バイブレーターが身体の奥底に触れる度に理性がひび割れ、一声ごとにそれが失われていく。

「あぁっ、動いてっ……中で動いてるぅっ」

 股布に押さえ付けられているからだけではない、挿入されたバイブは見えざる手に握られたかのように、或いは自らが意思を持つように淫裂をえぐリ、押し上げられた股布がぐねぐねと蠢く。
 深々と奥まで差し込み震える先端を底にぐりぐりと押し付けたかと思うと、張り出したカリの部分で肉襞を掻きながら引き抜く。それらの抽送を速度に、深さに、角度に緩急を付けて繰り返し、私を翻弄する。
 
「あっ、あっ、あっ……あぁんっ……んぅっ……んはぁっ」

 ゆっくり浅く、入り口を押し広げるように。深くゆっくりと、絡みつけた肉の襞を捏ねまわす様に。早く浅く、小刻みにむしろ膣壁を擦ることを目的に。深く早く、勢いを付けて最奥部に叩き付ける様に。
 リズムに合わせて宙に浮いた私の腰も前後に揺れ、粘りつくような水音を立てる。一付きごとに愛液が溢れ、今や吸湿性に乏しいストッキングの下を伝って、内股の大部分を濡らしていた。


「あぁ……あ……くふぅっ、ク、クリぃっ!」

 脚を開き、突き出すように揺らしていた腰が一際高く跳ねる。
 身体中に加えられ続けていた刺激に既に尖り切って包皮を脱いだ肉芽がクリ舌――バイブレーターから平行して伸びる細い突起――に触れたのだ。身動ぎして淫蜜に滑る下着と擦れるだけでも痺れが走るそこを突付かれ、堪らずその名を口に出してしまう。それと同時に唇の端から背けた頬に生暖かい物が伝う。
 あぁ、涎まで垂らしてる……私今きっと凄い顔をしてる……。

「あああぁ――っ、クリィっ……ビリってして、すごぉくっ……あぁああ……すごっくいぃっ」

 とっくに砕かれた理性が検閲を放棄した淫語がノーチェックで口から溢れ出す。人前で口にする事などあってはならない言葉を喜悦に緩んだ顔で連呼する。職場を共にする人間には決して見せられない姿。それを晒す事が、堪らなく気持ちいい。
 自分の手による様に的確に、他人の手による様に激しく、バイブが抽送される。突き、掻きまわし、引っ掻き、捏ねられる。もう一つの先端に当てられた肉豆を支点に抉られる。動きが変化するたびに私の声もトーンを変え、膣内を蹂躙される様を余す事無く伝える。
 照明のみならず脳裏で瞬く火花が視界を白く染め……

「あぁああ……ふあっ、あ……」

 不意に目の前が暗くなる。ぼやけた視界と身体に触れる感触で黒い布が掛けられた事がわかる。だが今の私にはどうでもいい。委細構わず布の下で身体をくねらせ、貪欲に快楽を貪る。

 急に黒い布で視線を阻まれ、観衆からは不満の声が上がる。こうしてる間にも彼女は布の下で痴態を演じているのだ。そんな爆発寸前の聴衆に対しマジシャンは朗々と告げる。

「皆様、大変長らくのお付き合いありがとうございました。私、黒崎誠二がお送りしてきたマジックショーはこれにて最後の演目となります。それでは参りましょう――」

「――1.」
 汗ばんだ肌に布がまとわり付く。
「2.」
 どこかで秒読みの声がする。
「3.」
 その声が意味を成さない音の塊の中からもはっきりと聞こえてくる。

「ハイッ!!」

 そして目の前が再び白く染まり……。

 布が翻るとともに布と同色の、そしてバニーガールの衣装と同色の黒い花びらが舞い上がる。その黒い花びらが舞い散る中、私は一糸まとわぬ――元々身に付けていた眼鏡と秘裂に突き刺さったバイブレーターだけの姿で宙に浮いていた。
 レオタードの下で硬質スポンジのボールに責め苛まれていた肌が露になり、篭っていた熱気が汗と、そして淫蜜とともに空気に触れて淫臭を漂わせる。
 手枷となっていたカフスも無く、自由になった手。力の入らないその手を伸ばし、縋る様にバイブに添える。見えない床に投げ出された脚の間でバイブを押し込み自らの手で抽送させると更なる喜悦の波が腰を突き上げ、身体を反らせた。
 艶やかな黒いハイヒールとストッキングの中でくねっていた足指が今はピンと反り返り、アーチの礎となる。そのアーチの頂点に突き上げられた腰がガクガクと、今まで刻まれていたどのリズムとも異なる激しさで打ち震え

「い……ひぃ……いっ、いくぅっいっちゃうぅ――ッ、自分でずぶずぶさせてぇ、あ……はぁっ……すご、いいっ……いくっ」

 衣装とともに理性までも剥ぎ取られ、私は観衆の視線の中、バイブを用いたオナニーの絶頂が近い事を宣言する。そして

「あ、はぁ……あああぁ――――っ!」

 身体をビクビクと痙攣させ、維持できなくなったアーチを崩し宙に身を投げ出した。
 私が誰で、なぜここでこんな事をしているのか、そもそもこんな所で快楽に耽るなど許されるのか、そんな些事がことごとく頭の中から打ち払われ、快楽の洪水が全てを押し流していった。

 絶頂の余韻で意識が遠のく中、身体が静かに下りていくような感覚。やがて身体がそっと固い床に触れ、錯覚ではなく私は身体が地に付いた事に気付いた。なんとはなしに視線を横に向けると床に敷かれていた黒い布とその上に舞い落ちた花びらが目に入る。熱を帯びた身体に冷たいステージの床が心地いい。
 ライトに照らされ、敷き布の上、花びらに彩られ、ただ絶頂の余韻に浸りながら私は目を閉じた。


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