第七話


「はい、まぁ色々言いたい事もあるやろうけど、とりあえずはこれでも飲んで落ち着いて な」  応接室のような部屋、椅子に座っている真由にお茶を出すと、陽はテーブルを挟んで真 由と向かい合うように椅子に座る。ちなみにこのお茶は普通のもので、細工などはしてい ない。  しかし真由はそのお茶には手をつけず、泣いて赤くなった瞳で陽のほうを睨み続けてい る。ただ、やはり濡れた下着が気持ち悪いのか時折脚や腰を動かしているが。  二階の最後で真由がお漏らしをしてしまった後、陽は泣きながら身体を震わせる真由が ある程度立ち直るのを待つと、彼女と一緒に通路を進み扉を通った。その先はこの部屋に 通じており、真由をそこにある椅子に座らせると、陽はこれからの準備のため一旦部屋を 出て。ついさっき再びこの部屋に戻ってきたのだ。 「さて、言いたい事はたくさんあると思うけど、まずはこれでも見てもらおか」  そう言うと、陽はテーブルの上に何枚かの写真を投げ置く。その写真に真由が目を落と すと、そこにはある程度予想できていた自分の姿が写っていた。  一階での仕掛けに驚き下着を晒してしまっている自分の姿。いくら予想していたとはい え、実際にそんな写真を見せられて平静でいられるわけがない。その頬が、怒りと羞恥の ため熱くなってしまう。  また今まで気づいていなかったが、この写真を見せられて初めて自分のブラが透けて見 えていた事にも気づいた。そして今も見られているであろう事に気づくと、反射的に手で 胸元を隠してしまう。 「今更隠さんでもえぇんとちゃうか?俺は散々見せてもろてるし、それ以上に恥ずかしい 姿も見てるんやからな」  そう言って喉を鳴らすように笑う陽に対し、真由は悔しそうな表情をしながらも手を下 ろす。確かに今更隠したところで、写真に撮られてしまっている以上無駄であろう。それ でもやはり下着を見られ続けているという状況に羞恥を消すことはできず、彼女の意思と は反対に、頬の赤みが一層増してしまう。  そんな真由の反応を楽しそうに見つめていた陽は、続けてまた写真を置く。そしてそれ を見た瞬間、真由の顔が明らかに強張った。  そこには床にしゃがみこみ、スカートから下着をのぞかせながら、その白いショーツを 黄色く染めていく自分の姿が写されていた。  そう、さっきのお漏らしの時の写真だ。  明るい場所で撮られたため、下着に広がっていく染みの様子までしっかりと確認できる。 それどころか、下着が濡れた事で股間に張り付いてしまっており、彼女の性器の形すら確 認できそうだ。  このような写真を撮られていたのは知っていたが、実際に見せられると先ほどの恥辱の 瞬間が思い出される。  高校生にもなってお漏らしをしてしまったという哀しみと共に、全身を包み込む心地よ い開放感。下着が濡れていく感覚は不快だったが、それでも限界まで我慢していた尿意を 開放する快感の方が勝っていた。  だが今となっては、ただ屈辱感しか残っていない。濡れた下着やスカートからも、放尿 時の温かさは感じられず、ただ冷たく張り付いてくる感覚しかない。 「と、まぁ色々な写真が撮れたわけやけど、これどうしよか?」  先ほどのお漏らしの瞬間を思い出していた真由は、その言葉にハッと顔を上げる。そし て無言のまま陽を睨み続ける。  対する陽は、そんな反応を気にしないかのように話し続ける。 「俺としては皆に見てもろてもええねんけど、俺一人で楽しみたいいうのもあるさかいな。 せやから君がある条件を飲んでくれたら、これは誰にも見せへんと約束する」 「……条件?」  この部屋に入ってから初めて言葉を口にした真由に、陽は口元を歪めながら答える。 「そ。まぁ一言で言うたら、誰か君の友達にここを紹介してほしいだけ。君がそうされた みたいにな。あ、それとこの事はもちろん他言は無用で」  その言葉は、ある意味予測できたものだった。  今思えば、彼女の友人の小枝子が必死になって彼女をここに連れてこさせたのも、これ が原因なのであろう。彼女がお漏らしまでしたかどうかは真由には分からないが、それで も恥ずかしい写真を撮られた事には違いない。  本来なら自分をはめた彼女に怒りを持つべきだろうが、今の真由はその怒りの矛先すら 陽に向けていた。  テーブルの上に置かれた写真を静かに見つめながら、真由は呟くように『条件』への答 えを返した。 「……いやよ」 「んぅ?」 「いやって言ったのよ!この写真を誰かに見せる?やりたかったらりなさいよ!でもね、 これから何をしたにしても、あなたは警察のお世話になるのよ!!」  テーブルに手のひらを叩きつけ、陽に食ってかかるように真由は叫ぶ。  もちろんこの写真を誰かに見られるなど、考えただけでも死にたくなるほど恥ずかしく なる。しかし、目の前にいるこの男に屈する事は、それ以上に考えられない事だった。  これまで何人の女の子がこの店に来たのかは知らないが、決して少ない数ではないだろ う。そしてこの数は、このままだと増える一方である。  もっとも今の真由に、そんな事を考える正義感はほとんどない。ただ純粋なまでの怒り によって、彼女は陽の出した条件を断ったのだ。 「……」  興奮する真由とは反対に、陽は無表情に彼女を見続ける。そのまま数秒の時間が過ぎた 後、彼の表情に変化が起こった。 「……く、くく……ははっははははは」 「な、何がおかしいのよ!?」  突然声をあげて笑い出す陽に、真由は思わず引いてしまう。だがそんな真由の行動も気 にとめず、彼はテーブルを手で叩きながらただひたすらに笑い続けた。 「ははははは、そうか、見られてもええか、はは、ええ、君ムッチャええよ!ははははは」  その気が触れたかのように笑う陽の姿に、真由は脅された時以上の恐怖を感じてしまう。 汗とオシッコで濡れた服から伝わる冷たさも手伝い、彼女は身体を軽く震わせながら、た だ笑い続ける彼の姿を見つめる事しかできなかった。


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